女性を笑顔にする、マーケティングのヒント。

今や消費の8割以上の決定権を握ると言われる「女性消費者」から選ばれ、愛され続けるためのマーケティングのヒントをお届けします。

高級「生」食パン専門店『乃が美』から学ぶ小さな会社のブランディング。

みなさんこんにちは。女性マーケティングラボの和田康彦です。

 

日本全国で多い日には一日何と80,000万本以上売れている高級「生」食パン専門店「乃が美」。2013年10月に大阪で創業し、わずか6年8ヶ月で目標だった全国47都道府県に出店、2020年9月現在189店舗を展開するほどの成長ぶりを見せています。

今回は、今や高級「生」食パンの代名詞にもなっている「乃が美」躍進の背景について、ブランディングという観点から分析していきたいと思います。

 

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◆どうせなら多くの人に愛されて、歴史に残る日本一のものをつくりたい。

お父さんの事業の失敗から、幼いころ食べる事にも苦労していたという創業者の阪上雄司社長は、「おいしいものをお腹いっぱい食べてもらえる場所をつくろう」という想いから、飲食店経営の道に進みます。その後20年以上に亘って飲食店経営に携わってきましたが、流行や世情に左右される飲食店業界は粗利も低く、「どうせなら多くの人に愛されて、歴史に残る日本一のものをつくりたい」という想いが日に日に強くなっていったそうです。

 

◆ふわふわの柔らかい食パンをつくろう。

「長く愛されるものって何だろう?」阪上社長は来る日も来る日も考え続けました。そんな時、大阪プロレス協会の会長として慰問していた老人ホームのおじいちゃんやおばあちゃんからこんな声を聞きます。「食べている時がいちばんしあわせ。でも朝食に出てくるパンは耳が固くて食べられへん」。また、卵アレルギーの自分の子供が毎日「パサパサの食パン」を食べていることも気になっていました。

 「そうだ!耳までおいしい、ふわふわの柔らかい食パンをつくろう!」阪上社長の心に芽生えたそんな熱い想いが、乃が美を生み出す原点になったといいます。この信念の裏には、長年の飲食店経営から学んだ「柔らかくて甘いものは流行の定番」という同氏ならではの勘や信念もあったようです。

 

◆こだわりこだわり抜いて、完成まで2年。

パン作りは全くの素人でしたが、「卵を一切使わないのに、ちぎってそのまま食べられるほど柔らかくてほんのり甘い食パン」を目指して開発はスタート。粉の種類、材料の配合、ミキシングのタイミング、焼く温度と時間など何度も何度も試行錯誤し、ようやく2年後「やわらかさ」「きめ細かさ」「甘み」「香り」すべてにおいて納得のいく食パンが完成しました。

 

ミキシングされた生地はトロトロになったお餅のようなテクスチャー、焼き上がりは「腰折れ」に近いぎりぎりの柔らかさで、これまでのパン作りの常識では考えられない状態だったといいます。

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◆徹底した素材への吟味から、乃が美の高級「生」食パンは生まれる。

 一度食べたらやみつきになってしまうもちもちの食感が人気の乃が美。美味しさの秘密は徹底した素材へのこだわりと吟味にあります。小麦粉には日本の農家が米をつくるのと同じくらい手間ひまかけてつくられたオリジナルブランドの小麦粉を使用。これによって、焼き上がりの香りが抜群で、すっととろけるような理想的な柔らかさを実現しています。またそれまでバターでは出せなかった小麦粉や蜂蜜の風味を極限まで引き出すために高級オリジナルマーガリンを使用。耳までおいしい食感が生み出されました。

 

◆通常の倍の価格でも、少しずつ想いが伝わって行列のできる店へ。

乃が美の高級「生」食パンは、高級という名前が示す通り、1芹432円(税込)、2芹864円(税込)と通常の食パン価格の倍以上のお値段です。当初は「そんな高いパン、売れるわけがない」と周りの人からも非難され、その言葉通り売れ残りの山だったといいます。しかしながら、地道に試食してもらうことで徐々に、乃が美のこだわりの美味しさが伝わっていきます。「うちの子はアレルギーなんで、乃が美さんのパンじゃないと食べさせられない」というお母さんや、「うちのおじいちゃん、このパンでないと食べないのよ」という娘さんなど、乃が美ファンはどんどん増えて、大阪の裏路地にある乃が美の店の前には毎日長い行列ができました。

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◆マスコミの力で知名度が一気にアップ。

パンブームの兆しがあった当時、行列ができる店をマスコミが放っておくわけがありません。大阪の情報番組ではこぞって乃が美のこだわりや愛用者の声を取り上げました。その結果、消費者の心の中には、「一度は食べてみたい高級「生」食パン乃が美」というイメージが醸成されます。そういう私も、テレビで紹介されてすぐに、大阪上本町にある総本店を訪れたことを思い出します。ただ、その日はあいにく売れ切れで悔しい思いをして帰ってきました。その後、2017年から2019年まで3年連続で、「Yahoo!検索大賞 食品部門賞」を受賞。また、マガジンハウスの「&premium」という雑誌で『日本の食パン、名品10本。』に取り上げられるなど、全国区に押し上げられます。さらにSNSの普及も手伝い、パンマニアのブログや芸能人にも取り上げられるようになり、乃が美の魅力は一気に拡散していきます。

 

◆乃が美のブランディングから学ぶ

ここまで見てきたように、「歴史に残る日本一の食パンブランド」を目指している乃が美には、小さなお店や会社が学べるブランディングの本質が詰まっています。

 

①  揺るぎない信念とビジョン、理念

「ブランドは強い想いから生まれる」ということが、乃が美の成功ストーリーからよく伝わってきます。「どうせなら多くの人に愛されて、歴史に残る日本一のものをつくりたい」という熱い想いが、「ふわふわのおいしいパンをつくろう」という具体的なビジョンにつながり、その結果として、誰もがおいしいと納得する商品が誕生しました。まさに、「たくさんの人を幸せにしたい」という強い想いが乃が美のブランド力の基盤になっているわけです。

 

②  圧倒的な商品力で惹きつける。

お客様がお金を出してくれるのは、あくまでも商品に対してです。「ふわふわのおいしいパンをつくろう」という想いから挑戦して2年。徹底した素材へのこだわりと妥協しないモノづくりがこれまでの食パンの概念を超えた新しい価値を生み出しました。通常の食パンの倍以上の価格でも、提供する価値がそのお値段以上であるとお客様が納得してくれれば、お客様は喜んで買ってくれます。そして常連さんになり、やがてはファンになってくれます。強いブランドの核は、あくまでも強い商品力であることを乃が美は教えてくれています。

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③  ネーミングに込められた願い。

乃が美という名前にも、創業者の熱い想いが込められています。「乃」には「すなわち、まさしく」という意味があり、「美」には「姿、色が美しい。感動、美味い」という意味があるそうです。

ここから、「すなわち、日本一美味しい食パンをお届けする」「まさしく、食パンを通して日本一の感動をお届けする」という揺るぎない信念を込めた「乃が美」というネーミングが生まれました。

熱い想いを込めたネーミングは、多くの人に感動を与えることにつながります。

 

④  老舗のような雰囲気を醸し出す。

阪上社長は長い飲食店経営から「長く愛されるのは、老舗で強い一品のあるところ」という本質を学んだといいます。そこで、老舗和菓子店をイメージした、伝統を感じる筆文字のロゴを制作。またおみやげや差し入れにも喜ばれる白い紙袋にもこだわりました。私の場合、街で乃が美の紙袋を持っている人を見かけると、思わず柔らかでもちもちした食感が頭の中に浮かび、また買いに行こうという気持ちになるから不思議です。中身はもちろんですが、ロゴや紙袋もブランドイメージを想起させるためには重要な要素になります。

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⑤  本当に美味いものがある老舗には立地が悪くても人は集まる。

大阪上本町にある創業の店、乃が美総本店は、駅から歩いて約5分。大きな通りからちょっと奥に入ったひっそりした裏路地に店舗を構えています。私が訪れた時も、グーグルマップを見ながら結構迷いながら店にたどり着いたことを覚えています。このように、乃が美の店の大半はひっそりした路地裏に位置していますが、ふわふわの柔らかいパンを求めて、立地には関係なく毎日多くの人が訪れています。ブランド力が強ければ、その魅力に人は自然に惹きつけられます。

 

⑥  地域に愛される「地元のパン屋さん」を目指す。

今や、47都道府県に189店舗を展開する乃が美ですが、目指しているのはナショナルブランドではなく、地域の人たちに愛される「地元のパン屋さん」です。大量生産は絶対にしないことを約束し、今後も「パン工場」を併設した店舗の展開を目指していきます。どの店にもひとつひとつ手作りで焼き上げた食パンを並べることをミッションにしている乃が美。いつまでも創業の気持ちを持ち続けることが、強いブランドづくりの基本となります。

 

⑦  評判を信頼につなげる。

乃が美の店内には、2017年から2019年まで3年連続で、「Yahoo!検索大賞 食品部門賞」を受賞したことや雑誌で『日本の食パン、名品10本。』に取り上げられたことを伝えるポスターが貼られています。お客様からのよい評判を武器に安心や信頼を深めていくことは、強いブランドを育てていく上でとても重要な取り組みになります。

 

以上、高級「生」食パン専門店『乃が美』から学ぶ小さな会社のブランディングについて解説してきました。どんな会社やお店も最初はゼロからのスタートです。ただ、スタート地点で、「世の中をよくしたい、多くの人を幸せにしたい」という強い想いがあるかどうかが、ブランディングが成功するための肝といえます。

コロナ禍でも好調、D2Cブランド「フーフー」から学ぶニューノーマルの時代の経営のヒント。

みなさんこんにちは。女性マーケティングラボの和田康彦です。

 

新型コロナウイルスの影響で、アパレル業界は苦境に立たされています。5月15日には、「ダーバン」「アクアスキュータム」などのブランドを展開する老舗・レナウン民事再生手続きを開始しました。業界大手オンワードホールディングスは、国内外の約700店舗の閉店を決定。2021年2月期までの間に、さらに約700店舗を追加で閉店することを発表しています。

 

また、サンエー・インターナショナルは、1991年から続いた人気ブランド「ナチュラルビューティー」を終了。ストライプインターナショナルも、長年10〜20代前半の女性向けの主力ブランド「イーハイフンワールドギャラリー」を終了します

 

コロナ禍の中でのファッションビルや百貨店の営業自粛に加え、長引く外出自粛ムードや在宅勤務の広がりにより、消費者の「装い」への意識が大きく変化したことも、多くのアパレルが苦戦を強いられている要因といえます。

 

◆コロナ禍の中でも成長を続けるD2Cブランド「foufou(フーフー)」

そうした中、2020年25月、4カ月連続前年同月比で200%以上の売り上げ成長を遂げたブランドがあります。20代女性を中心に、幅広い層から支持されているブランド「foufou(フーフー)」です。

 

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「フーフー」は代表兼デザイナーの高坂マール氏(29歳)が、「服よりも他のことにお金を使いたいが、『ユニクロUNIQLO)』や『ザラ(ZARA)』では満足できない。そういった人たちが買えるような服を売りたい」という思いからEC専売のハンドメードブランドとして2016年にスタート。感度が高いネットユーザーたちの目にとまり、一気に成長してきました。実店舗を持たず、販路は同社ECサイトのみという、D2C(Direct to Consumer)ブランドです。

 

2019年末時点での年商は2億円、2020年は4億円を超える見込みで、業界でもD2Cの成功例の1つとして注目されています。

 

◆消費者目線のモノづくりを大切にする「foufou(フーフー)」

「フーフー」は、ニューウェーブファストファッションを自称し、安価でありながら、50~70%と高い原価率で従来のファストファッションにはないデザインの商品を毎月2型ずつ販売。服の生産背景や商品の価格付けの理由などを高坂デザイナーが自身のインスタグラムでユーモアを交えつつ伝えるというユニークな点もあわせ、20代女性を中心にコアなファンを獲得してします。

 

コンセプトは、適度にお洒落で、適度に使い勝手のよく、適度な価格の服に文脈を持たせ、

提供する人達の暮らしや消費を変えるブランドです。

 

高坂デザイナーが一貫して注力しているのは「消費者目線のモノ作り」です。同氏は「重要なのは消費者が価値をどこに感じるかということ。原価率が仮に10%だとしても、購入者が健康的に消費ができるのであればそれでいい。業界の視点だけで服を作っていくと、お客さんとの間に認識のズレが生じる。」と語ります。目指すのは、安くて、使い勝手が良くて、品質はそこそこ。そしてパッと買いに行けるものです。

 

 

◆価値の高い商品をリーズナブルな価格で提供する「foufou(フーフー)」

同社の服はすべて国内生産で、布をふんだんに使った商品が多いのが特徴です。原価率は50~70%と、20〜30%に抑えるブランドが多い中で、極めて異常な数値といえます。ただ、消費者にとっては価値の高い商品をリーズナブルな価格で手に入れることができるといううれしいメリットがあります。

 

フーフーでは、独特のビジネスモデルでこの原価率の重さをカバーしています。フーフーの戦略は「広告宣伝費はゼロ円」「セールは一切しない」「販路を拡大しない」。どれも、業界の常識を覆す内容です。また、配送や梱包なども簡素にして安く届けることにこだわっています。

 

 

また2018年5月からは、縫製職人とのマッチングサービス「ヌッテ(NUTTE)を運営するステイト・オブ・マインドと協業。生産管理、梱包、配送などの業務サポートを受けることでブランド規模を拡大してきました。

 

◆在庫は残さない健康消費を目指す「foufou(フーフー)」

フーフーでは、新作はすぐに完売するそうですが、たとえ在庫が売れ残っても、セールはしません。「定価でも購入してくれる、熱量の高い顧客を大切にするため」です。

 

同社はブランド設立当時から「健康的な消費」というコンセプトを掲げていますが、見事それを体現しているといえます。

 

コストへの姿勢は、コロナ禍での対応にも表れています。普段、商品ページにはプロのモデルを起用していましたが、スタジオ撮影ができないコロナ自粛中は、メンズアイテムについてはマール氏自らがモデルを兼任。コストもかからず、顧客からの反応も上々だったそうです。

 

◆コロナ禍の中でライブ配信に注力する「foufou(フーフー)」

普段はLINE@やインスタグラム、noteなどで新作情報やブランド理念を発信していますが、それに加え、全国各地で試着会(展示会)を実施しています。実店舗を持たないブランドながら、ファンに直接商品をアピールする試みです。

 

ここ数カ月は、新型コロナの影響で試着会は中止に。そこで、インスタグラムでのライブ配信に注力してきました。インスタライブでの販売自体は目新しいものではありませんが、フーフーがちょっと面白いのは、モデルではなく、それぞれ身長が異なるスタッフが商品を試着し、動画で服をアピールしている点です。

 

コメント欄には、視聴者から「162cmだとSとMどちらがいいですか?」などの質問が飛び交い、その一つひとつに、スタッフとデザイナーが直接回答しています。ライブ配信では、説明しすぎず『ツッコミどころ』を意識して発信。顧客の発言ハードルを下げ、コメントが集まる仕組みをつくることで、双方向のコミュニケーションを大切にしています。

 

 

◆今後も軸はぶらさない「foufou(フーフー)」

新型コロナウイルスによって、『わざわざ外出する』ことが大きな意味を持つようになりました。日用品としての服飾費を抑える人は増える中、『日常を非日常に変えてくれるためのファッション』に投資する人も多くなることが予測されます。

 

そんな中、お客さんが着た時に高揚感が感じられる服を作っていきたいという軸はぶらさず、変化していかなければいけないことは変化していくという「foufou(フーフー)」の経営スタイルからは、ファッション業界のみならず、あらゆる業界がニューノーマルの時代に生き残るヒントが見えてきます。

 

ニューノーマル時代をリードする、鳥取発のバッグメーカー、バルコスがTOKYOPROに上場

鳥取県倉吉市に本社を構えるバッグメーカーのバルコス(山本敬社長)は2020年8月28日、東証TOKYO PRO Marketに新規上場を申請しました。上場日は10月2日を予定しています。

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バルコスは1991年に設立。バッグブランド「バルコス(BARCOS)」「バルコスジェイライン(BARCOS J LINE)」「ハナアフ(HANNA-FU)」「バルコスブルー(BARCOS BLUE)」などを抱え、クリエイティブなレディスハンドバッグや財布などの皮革商品の企画・デザインを行い、国内外で販売しています。

 

またテレビや雑誌、そしてインターネットでの販売でも、リーティングカンパニーの地位を築いているほか、インフライトマガジンへの商品企画、アパレルメーカー、グローバルブランドへのOEM・ODMなど、他社との共同企画商品も提供しています。

 

海外では、ニューヨークで開催される展示会”COTERIE”(コーテリー)へ出展、またミラノで開催される世界最大規模のハンドバッグ展示会“MIPEL”(ミペル)にジャパンブランドとして唯一継続出展を果たし、過去三回デザイン賞などを受賞しています。

 

現在は、パリで年4回開催されている “PREMIERE CLASSE”(ブルミエールクラス)にも出展し、世界的にそのデザイン力と商品力が高く評価されています。

 

07年にスタートした「ハナアフ」は、折り紙からインスピレーションを得た6通りに変形できるバッグ“アリエス(ARIES)”が注目を集め、アメリカやアジアなど、世界中の百貨店やセレクトショップで扱われています。生産では中国・広州に自社サンプル専門工場を構え、迅速で大量にサンプルを制作できる体制を有しています。

 

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◆コロナ禍の中でも業績は好調

2020年12月期の見通しは、売上高が前期比44.3%増の44億円、営業利益は同51.9%増の4億7200万円、経常利益が同52.7%増の4億5100万円、純利益が同81.6%増の2億9100万円を見込んでいます。新型コロナウイルスの影響で店舗事業が苦戦を強いられていますが、鳥取県が行う新型コロナウイルス感染対策事業のマスク販売あっせんに協力したことや、オンライン事業の強化などで店舗事業の損失をカバーしています。

 

◆倉吉市内の6畳一間からスタート

山本敬社長は、1966年大阪市生まれ。12歳の時に両親が離婚し母親の実家がある倉吉市へ。県立倉吉東高校卒業後、大学進学とともに上京。卒業後、大手出版社の女性誌などのカメラマンとして活躍していましたが「商売のほうがクリエイティブ」だと、20代半ばの1991年、倉吉市内の実家の6畳一間で独力で創業しました。「(実業家として)日本一になりたい」という思いから、当時規模が小さかったというバッグ業界で勝負を挑みました。社名のバルコスは、スペイン語のbarco(船)から、会社が大きく発展するようにという願いを込めて名付けました。

 

ワニ革のバッグなどを卸売りしていた97年、ドイツの人気バッグブランド「PICARD(ピカード)」のメーカーから声がかかり、同社の日本総代理店に。日本向け商品を企画して商品開発のノウハウを学び、独自商品の製造もスタート。イタリア・フィレンツェに支社を置き、世界20カ国以上に進出。日本全国の大手百貨店等と取引があります。

 

◆倉吉から世界へ

1991 年、バルコスは鳥取県のほぼ中央に位置する倉吉に誕生しました。市内には古を思わせる白壁の土蔵が並び、あたりは緑豊かな田畑が広がるのどかな地域です。

 

ファッションに限らず、産業のほとんどは大都市に集中し、多くの人を呼びこみ、トレンドや独自の文化を形づくってきました。しかし、近年では必ずしも都市が物事の発信地とは限りません。

情報や物流の発達により、地域産業の魅力を全国、そして世界に発信し注目を集めている場所も数多く存在します。

 

同社も、品質の高さを背景とする日本ブランドのバッグとして、世界のステージに向けて挑戦、独創的な魅力をとどけています。

 

合言葉は「倉吉から世界へ」。made in kurayoshi のバッグが、日本を代表するバッグとして世界にひろがり、人の心を豊かにつつみこむことをバルコスは夢見ています。

 

山本社長は、「ヨーロッパに東京のような大都市はない。適度に田舎で、みんな豊かなんです。ワインづくりやシャツの縫製などで、いいものに付加価値をつけて商売をしている。日本もそうするべきです。地方で貧しくではなく、地方で豊かに暮らす。県内にそんな企業が2社、3社と出てきたらモデル地域になるかもしれない。自分が実績を残して、若い人に伝えたい。」

 

「ブランドによるイメージ戦略が上手なヨーロッパ型を目指していきたい」

 

「フィレンツェにグッチがあるんだから、倉吉にバルコスがあっても不思議じゃないはず」

 

「イタリアでは、名だたるデザイナーがフィレンツェの出身で、フェラガモはローマでもミラノでもなく、フィレンツェで起業しました。結果的にフィレンツェがファッションの街になったのであって、真面目にやっていいものを作り続けるのには、本社の場所は大都市じゃなくても、どこでもいいということです。」と倉吉で創業した思いを語っています。

 

◆目指すのは「愛される質」

同社のホームページには、バッグづくりにかける熱い思いが下記のように綴られています。

心からほんとうにいいと思ってもらえるバッグをつくりたい。バルコスの想いは、単純すぎるほど正直でまっすぐです。それは、デザインの豊かさだけではありません。素材や縫製の確かさ、機能性といったものだけでもありません。手にするたびにときめきを覚え、その喜びがいつまでも長くつながっていくものであること。目に映る品質を超えた先にある、愛される質を求めつくり続けています。倉吉という小さな場所から、日本ブランドとして世界の大きなステージへ。バルコスはきょうも夢と情熱、そのすべてをバッグづくりに捧げています。

 

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◆「響きあう情熱」が世界から支持される商品を生み出す原動力

また、「創造にとって大切なのは、既存の概念にとらわれないしなやかな発想力。それを表現するのは若さ、自由さ、それらを妨げることのない空気だと考えます。バルコスのデザイナーは自ら考え、その答えを言葉とビジュアルで明確に形にしていきます。そのあふれる熱意と瑞々しい感性こそが、型にはまらない独創的なスタイルにつながっています。日本の新しい質を備えたバッグは、ここから生まれます。」と、世界中から支持される商品を生み出す原動力は「あふれる情熱」にあることをメッセージしています。

 

◆付加価値を生み出すブランドづくりで世界へ進出

バスコスは、ビジネスのスタート当初、自社にブランド力がなかったことから、バッグに「爬虫類皮」という付加価値を持たせて販売。その後、流通業のトップである百貨店への参入を狙い、日本での販売代理店を探していた「PICARD」の代理店になり、「ドイツバッグメーカーの販売代理店バルコス」という肩書を得て、百貨店事業参入に成功。「PICARD」のバッグは当初はデザインやサイズが日本人に合わず売れなかったのですが、中国の工場で水牛皮の日本仕様のバッグを作ったところ、これが人気となりました。

 

その後「PICARD」に加え、百貨店で自社ブランドのバッグや雑貨販売を開始し、事業は拡大。しかしディベロッパーの商業ビルテナントでの直営事業に進出したが失敗。顧客は「百貨店で扱っているバッグ」を購入していたということに気づいたことから、ビジネスモデルについて再考し、ライバルの少ない海外事業での展開を考えました。

 

2007年1月、他社と差別化した付加価値をつけるため、イタリア(フィレンツェ)に支店を開設。

2007年9月には、日本企業として初めてミラノの国際皮革製品見本市「MIPEL」に出展を開始。3回目となった2008年秋には、世界491社の中で、 「デザインイメージ賞」上位5社にノミネートされました。そして、著名なイタリア人デザイナーにブランドの監修を依頼し、いち早くトレンドを取り入れる工夫をしました。

 

「MIPEL」への出展や、トレンドをすばやく製品生産に活かす仕組みにより、国内でのOEMに加え、相手先のブランド名で設計から製造までを手掛けるODMが急増。セレクトショップにも取引が一気に広がりました。また北欧などを始め、海外にも販路が拡大しました。

 

◆「生産は適材適所」という考えに基づき、中国の広州にサンプル工場を開設

バルコスの強みの一つが、中国につくったサンプルだけを作る自社工場。サンプルだけを月に500個作れるようになっており、他社との差別化の武器になっています。

 

製造工場は、ラインを止めてまでサンプルを作るのを嫌がるので、細かい修正に応じてもらえない場合があり、急ぎの仕事が頼みにくいという実情があります。一方、サンプル専門工場ならならレスポンスも早く、ポケットをあと何ミリ下げてもう1回作って、などの注文にも素早く対応できます。

 

OEMの場合、速さは他社では真似できないことなので大変有利になります。また自社ブランドでも、サンプルをモニターしてもらって納得がいくまで何度でも作り直すことが当たり前にできるのでお客様に満足していただけるモノづくりができます。

 

この、完成度が高いサンプル作りもバルコスの付加価値のひとつであり、これができるブランドはなかなか見当たりません。サンプルを見せれば、どのレベルの仕事ができるかプロはわかるので、商談も早く、世界各国からの注文には、言葉よりサンプルを見てもらったほうがわかりやすいというメリットもあります。

 

◆海外で大ヒットしている、折りたためるバッグ「Hanaa-fu」

バルコスは、いかに海外の女性に日本のブランドのバッグを持ちたい、バルコスが欲しいと思ってもらうかを考えています。『Hanaa-fu(ハナアフ)』は折りたためるバッグでありながら、どのたたみ方でも美しい形と機能性を備えてます。この技術と発想が海外でウケて「折り紙のようだ」「高品質と高機能が日本らしい」と高い評価を得ました。世界では『Hanaa-fu』がバルコスのイメージになっています。この成功により、バルコスが作るとバッグも楽しくなると印象づけることができました。

 

◆最高品質のラグジュアリーブランドの育成

一方、国内向けには、世界基準のラグジュアリーブランド『バルコスJライン』を提供しています。Jラインは革なめしから、裁断、縫製、彫金にいたるまで、すべて日本製。日本最高峰の職人たちが、徹底的にこだわった日本のモノづくりを追求しています。この伝統の技に日本が世界に誇るクリエーターの感性を掛け合わせることで、これまでにない、世界に通用する高感度なラグジュアリーレザーブランドを作り上げました。同社は、ジャパンラグジュアリーの創出は、日本ならではの文化、伝統を守り、新たな形で発展させていくことにつながっていくと考えています。

 

◆バルコスから学ぶ、「ニューノーマルの時代は、地方発世界へ」

新型コロナウイルスの感染拡大が続き、東京一極集中の弊害やテレワークの推進に注目が集まっています。バスコスは、今から約30年も前に、大都市一極集中に疑問を呈し、鳥取県倉吉市からファッション商品を発信することにチャレンジしました。当時銀行からは「倉吉でファッションなんかできるわけがない」って。みんなから笑われていたそうです。地方に工場や小売店はあっても、ファッションブランドなんてゼロの時代。当然といえば当然といえます。

 

一方で、ヨーロッパは自国の各地に都市が点在しています。大都市はそんなに多くなくて、それぞれが小規模。たとえばバルコスの子会社があるフィレンツェは、だれもが知っているイタリアの歴史ある街のひとつですが人口は約35万人とそれほど多くありません。観光客が年間約300万人訪れる街で、ファッション、農業、観光で成り立っています。市街中心部は「フィレンツェ歴史地区」としてユネスコの世界遺産に登録されており、1986年には欧州文化首都にも選ばれています。

 

ニューノーマルの時代はデジタルシフトの重要性が叫ばれていますが、一方でこれからの日本人が目指すべきは文化的に成熟したヨーロッパが先行するローテクの付加価値づくりです。アフターコロナの時代は、世界に認めてもらえる文化度の高さでモノを売る時代です。

 

 

 

 

 

「ルルレモン」に学ぶ、つながりを大切にして女性客をファンにする方法。

みなさんこんにちは。女性マーケテイングラボの和田康彦です。

新型コロナウイルスの影響で、世界中の健康意識が高まっています。体力がないと命の危険につながると感じる人々が増加し、事態が収束した後も、健康を重視する動きは続くと思われます。

ところでみなさんは「ルルレモンアスレティカ」という会社をご存知ですか。女性にはご存知の方が多いと思いますが、男性にはまだあまり知られていないのではないでしょうか。

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ルルレモンは、1998年、チップ・ウィルソンがカナダのバンクーバーで創業したアスレチックウエアのブランドです。レディス向けのヨガパンツの販売からスタート。質の高い商品とヨガブームが相まって、ヨガをライフスタイルに取り入れるヨギー(ヨガ愛好家)の支持を集めて人気ブランドに成長しました。今では、カナダ、アメリカを基点に中国、欧州、日本にも進出。Eコマースを強化することで業績を拡大しています。

同社のHPでは、ルルレモンのストーリーを以下のように紹介しています。
「1998年にlululemonを創業したチップ・ウィルソンは、カナダ・バンクーバーの海沿いの街Kitsilanoに、
昼はデザインスタジオ、夜はヨガスタジオの顔を持つスペースをオープンしました。

そこはただ単にスポーツウェアを売る店でなく、地元のコミュニティが集まり、健康的な生活やマインドフルネスについて語り、可能性に満ちた人生を生きるハブとして存在しました。そこに訪れるゲストといい関係を築き、
彼らが何を求めているのか、どんな風に汗を流すのか、そして彼らの目標達成をサポートすることがチップのストアにとって大切なことでした。ゲストとのつながりを大切にするこの姿勢は、ブランド創設から20年が経ち、世界中で400以上のストア展開をする現在でも、ひとつひとつのlululemonストアに息づいています。」

2020年1月期の売上高は、前年比21%増の39億7929万ドル(約4297億円)、営業利益は前年比26%増の8億8911万円(約960億円)、純利益は前年比33.4%増の6億4559万円(約697億円)と二桁の増収増益を果しています。ちなみに売上に対する営業利益率は22.3%で、低迷する日本のアパレル企業からは想像もできない高い利益率を実現しています。

ルルレモンのブランドターゲットは「最高にシェイプな身体を維持するためにヨガをライフスタイルに取り入れている、コンドミニアムを所有する32歳の成功したビジネスウーマン」です。つまり、日ごろはバリバリ働いて高所得を得ているものの、ストレスも多く健康には人一倍気を配っている働く女性」と捉えるとイメージしやすいかもしれません。

アメリカでは、日本と違いスポーツウエアを着たままジムに通い、運動後も汗をかいたウエアのままで自宅まで帰るのがスタンダードです。そこでルルレモンは、機能性を追求したスポーツウエアとファッション性を追求したストリートウエアのどちらも兼ね備えた「ファッションスポーツウエア」という新しい市場を創造します。今でいう「アスレジャースタイル」の先駆者として業績を拡大してきたわけです。

また、ルルレモンは、当初から「単にスポーツウェアを売る店でなく、地元のコミュニティが集まり、健康的な生活やマインドフルネスについて語り、可能性に満ちた人生を生きるハブ」として店を位置付けることで、顧客とのつながりを大切にしてきました。

現在では、地元のヨガインストラクターやトレーナー、アスリートなどをアンバサダーに任命。彼女たちに無料で商品を提供する代わりに、店で定期的に開くヨガやランニンググループの講師を務めてもらっています。

ルルレモンの各店では、アンバサダーを招いてのイベントを定期的に開催。顧客にルルレモンの世界観を体感してもらい、ブランドロイヤリティを高めることに成功しています。顧客はイベントに参加することで、アンバサダーや店員、参加した顧客同士の絆が育まれて、ルルレモンのファンになっていくわけです。

また、ルルレモンでは、25-35歳のフィットネスに関心を抱いている女性に向けてのSNSにも力を入れています。フェイスブック、ツイッター、インスタグラム、ピンタレスト、ユーチューブを通して、質が高く人びとのライフスタイルに溶け込むコンテンツを発信。ユーチューブでのヨガレッスンをはじめ、インスタグラムではヘルシーな料理を紹介するなど、運動する時間だけでなく生活全体で活用できるコツやテクニックを提供することでミレ二アル世代からの支持を集めています。

ルルレモンは、デパートなどに委託販売せず、直営店とECによる販売スタイルで業績を伸ばしてきました。つまり価格やブランディング面で主導権を確保し、ブランドロイヤリティを高めてきたことが成功の背景にあります。

また早くからデジタル化を推進。洗練されたウエブサイトやアプリを提供することで、売上に対するEC比率も30%を実現。またECにおけるフルフィルメントの効率化や個客に対するカスタマイズサービスの提供によって熱心なファンを育てています。

ECでは送料、返品料を無料にすることで、買い物のハードルを低くし、リピーターの獲得にも成功しています。その結果、フィット感に対する不満も減少し返品率を減少させる効果にもつながっています。

さらにルルレモンは、店員に客への売り込みを禁止していることでも有名です。客と一緒にヨガやランニングをすることで、坪当たりの売上は全米トップ10に入っているというから驚きです。つまり売らなくていい、買わなくていいとなると店員もお客様も楽しくなり、結果的に両者の仲が良くなって売れていくのだと思います。

ルルレモン成功の要因には、①新たな市場の創出 ②EC化を推進するデジタルシフト ③アンバサダーによるコミュニティづくり ④ライフスタイルを豊かにするSNSでの情報発信等が考えられます。ただ最も重要なことは、それらの戦略を通して顧客とのつながりを醸成してきたことではないかと思います。

 



男性マーケターが知っておきたい、女性消費者のこころをつかむ5つのポイント。

みなさんこんにちは、女性マーケテイングラボの和田です。

私は、30数年間にわたって、女性向け通信販売会社で商品開発やメディアプロデュース、マーケティング業務に携わってきました。その中でひたすら考えてきたことは、どうすれば女性のこころをつかんで、売上を伸ばしていけるかということです。今振り返ると、それは小さな実験の積み重ねだったといえます。チームや自分なりに仮説を立てて、商品デザインやネーミングを工夫する。カタログやECメディアの写真の撮り方を変えてみる。プロモーションアイデアについてモニターさんに聞いてみるなどなど、地道な改良・改善の積み重ねでした。しかし30数年も女性消費者と真摯に向き合ってきたおかげで、女性消費者が求めていることや女性消費者を喜ばせる秘訣のようなものを体得することができました。今日は、私のような男性マーケターが知っておきたい、女性消費者のこころをつかむ5つのポイントについてお話しさせていただきます。

●まずは男性脳と女性脳の違いについて理解することから
そもそも男性と女性は全く違う生き物です。脳の構造も違うし、身体の構造も違います。特に脳の構造が違うために、男性と女性は全く別のフィルターを通して世界を見ています。何に興味を持ち、何を心地よく感じ、何を求めているか、という考え方や感じ方すべてが違います。つまり女性マーケティングは、「男性と女性の思考形態はまったく別ものである」ことへの理解から始まります。

●原始時代に形成された男女の脳の違い
人間の脳は、太古の昔、何年も続いた原始時代に形成されたと言われています。その時代、男性は狩りに出て食糧を調達する役割が課せられていました。狩場でライバルと競い合い、勝利したものだけが獲物を手に入れられる。こんな経験から「狩猟本能=競争本能」が自然に備わっていきます。そして効率的に獲物を仕留める方法を模索する中で、論理的に考える力や、空間認知能力、情報処理能力も発達。決断力や一つのことに対する集中力も進化しました。

一方、日本人女性は元来農耕民族であり、一族や集落との調和を図りつつ、集団で子育てしたり、木の実を採集したりといった役割が課せられていました。それゆえ、女性は特定のコミュニティ内でいかに関係を円滑にするかという視点で、周りに同調・共感しようと努める能力が備わったといわれています。そこから、複数のことを同時進行できる能力やコミュニケーション能力、周辺も含めて全体を見渡せる能力が発達していきました。

●男脳と女脳の最も大きな違いは「脳梁」の太さ
人間の脳には、左脳と右脳が存在します。一般的には、左脳は論理的なことを司り、右脳は感覚的なことやイメージを司っているといわれています。男性は主に左の脳を使って考えるため、論理的思考が強い。女性の場合は、左右の脳をつなぐ「脳梁」という連絡橋の太さが男性よりも太いため、左右の脳で処理する情報の流れがよく、男性に比べて情緒や感覚、感情といったあいまいな感覚を感じ取る力に長けています。

●女性思考を理解することからすべては始まる
このような男性と女性の脳の違いは、消費行動にも大きな影響を及ぼしています。今や消費の決定権の80%以上を女性が握っていると言われる時代、女性思考に合わせた商品開発や店づくり、接客、販促といったマーケティングがますます重要になってきています。「自分は女性消費者や女性従業員のことを理解している」と過大評価している企業経営者や男性マーケターのみなさんも、改めて女性思考の特長をしっかり理解しておきましょう。

●女性消費者のこころをつかむ5つのポイントとは
男女の思考の違いが、男性と女性の消費行動の違いを生み出しています。とはいえ、男性が女性脳に近い考えを持っていたり、女性が男性的な考えを持っていたりと、一人ひとり違うことも認識しておかなければいけません。その上で、女性消費者のこころをつかむポイントを整理すると①男性は論理優先、女性は感覚優先、②男性は結果重視、女性はプロセス重視、③男性は自己完結、女性は他者依存、④男性はモノ志向、女性はコト志向、⑤男性は競争好き、女性は共感好きという5つに分けられます。それでは具体的に見ていきましょう。

●女性消費者のこころをつかむポイント① 男性は論理優先、女性は感覚優先
男性は主に左脳を使って考える傾向が強いため、論理的な思考を優先させた消費行動をとります。具体的には、数字で商品の優劣を判断できる機能や性能、つまりスペックを重視して購入する人が大半です。企業内でのコミュニケーションも、売上や利益率、達成率、KPIといった数字が中心で、数字が男性を動かしているといっても過言ではありません。

一方、左脳と右脳をつなぐ連絡橋「脳梁」が太い女性は、情緒や感覚、感情といったあいまいな感覚を感じ取る力に長けています。それゆえ、「カワイイ!」「オシャレ!」「気持ちよさそう!」「美味しそう!」といった感動や驚きが女性のこころを動かす出発点になります。

アップルは、直観的なデザインを通じて、マニュアルなしで操作できるスマートフォンを開発。感覚的でおしゃれなデザインが、世界の女性ファンを一気に増やしました。

「インスタグラム」は、ビジュアルを中心とした感覚的なコミュニケーションツールとして、今や若い女性になくてはならないSNSになっています。

感覚を優先する女性は、男性のようにモノ自体の価値を重視するのではなく、買った後の価値、つまり使用価値をイメージしながら購入します。例えば、お気に入りのソファを見つけた時も、それによって自分の部屋が今までより素敵になるか?ゆったりとくつろぐことができるか?他の家具と調和するか?など、その商品を買うことで得られる「ベネフィット」が購入の決め手となります。北欧家具のイケアが女性に人気なのも、部屋のコーディネートをイメージしやすい売場づくりに徹しているからです。

また、女性は宝探し感覚で「発見する」ことも大好きです。海外旅行に行っても、地元のマルシェや骨董市で、「何かいいもの」を物色することが何よりの楽しみです。国内に目を向けても、コーヒーと輸入食材の専門店「カルディコーヒーファーム」や総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」は、常に新鮮な発見や驚きを提供する売場づくりで女性ファンのこころをガッチリつかんでいます。

「インスタ映え」に女性のこころは動きます。企業もシズル感やライブ感、使用感を感じてもらえる魅力的な画像を発信していくことが大切です。また、文字もゴシックや明朝といった活字よりも、手書き文字の方が伝わりやす場合もあります。女性に人気のフランスの化粧品メーカー「ロクシタン」は、店頭のイラスト入り手書き文字黒板でメッセージを発信。女性客を店内へ誘導することに成功しています。

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女性は、「いい感じ!」「色がすてき!」「私にぴったり!」といったイメージで何を買うか判断します。商品も売り場も接客も販促も、女性をワクワク・ドキドキさせることが成功の近道です。

●女性消費者のこころをつかむポイント② 男性は結果重視、女性はプロセス重視
狩猟時代、男性は狩りに出ていかに多くの獲物を持って帰るかが重要な役割でした。求められたのは手段ではなく獲物の数、結果ありきの世界です。一方女性は、集団生活の中で周りと調和を図りながら生活していく術が求められていました。女性消費者のこころをつかむポイントの2番目は、結果を重視する男性、プロセスを重視する女性です。

私も含めて一般的な男性は、自分が欲しいものがあれば、まずは売り場に直行します。そしてできるだけ時間をかけず効率的に買い物を済ませようとします。つまり買い物も結果重視。自分の欲しかったものが手に入ればそれでOKなのです。アマゾンは、書籍のEコマースからスタートしましたが、当初飛びついたのは合理的な買物手段を求める男性でした。

一方女性は、その日の買い物の目的があっても、あっちをブラブラ、こっちをブラブラ。買いもしない洋服を試着してみたり、化粧品のテスターを試してみたり、いわゆるウインドーショッピングが大好きです。つまり男性と違って、買物のプロセスを楽しむ傾向が強いといえます。

マルシェで買物するのが好きなのも、出品者とのコミュニケーションが楽しいから。目的もなくインスタグラムの画像を見ていられるのも、それ自体がワクワクするからといえます。

今や月間1500万人以上が利用しているフリマアプリ「メルカリ」には、商品へのコメント機能がついています。「もう少し安くなりませんか?」「想像以上に可愛かったです!」など、売り手と買い手が対話を楽しみながら買物できる仕組みが成功の一因と言われています。まさにプロセス重視で女性のこころをとらえた好事例です。

女性に人気の居酒屋の共通項は「トイレの美しさ」です。いまやトイレが清潔で、ある程度広くなくては女性客を呼ぶことは出来ません。女性にとってトイレは、単に用を足すだけの場所ではなく、化粧を直す、スマートフォンをチェックするプライベートな空間です。料理の美味しさはもちろん大切ですが、気持ちよい時間を過ごせる空間にも意識を向けなければいけません。

また女性は、様々な場面で対話を楽しみたいと思っています。お気に入りのショップを覗くのも、気の合う販売員とおしゃべりを楽しみたいから。そこで、新着商品の情報を聞く、コーディネートアドバイスを受ける中で、消費意欲が徐々に高まっていきます。優秀な販売員の共通項はコミュニケーション能力です。EC時代になればなるほど、顧客に楽しい買い物体験を提供できる販売員が求められてきます。

そして、女性は楽しく目的を達成したいと考えています。だから、山登りもマラソンもまずはおしゃれなウエアと道具を揃えることから始まります。女性がワクワクするシーンを想像しながら、商品やサービスのアイデアを考えることが女性マーケティングの鉄則です。


●女性消費者のこころをつかむポイント③ 男性は自己完結、女性は他者依存
一般的に男性は道に迷っても人に聞きたがりません。かく言う私も同じです。多分、男にとって助けを求めるのは弱さの印で、どうしようもなくなった時の最後の手段と考えているからです。反面女性は人に道を聞くのは賢明な方法で、時間の節約になると考えます。

このような男女の違いは買い物の仕方にも影響を及ぼしています。女性はお店で何かを探すとき、手っ取り早く店員に助けを求めます。一方男性は、助けを求めることを嫌い、余計に時間がかかろうが最後まで自分で探そうとします。分厚いマニュアルを横にしながらコンピュータの設定をするのは男性、サポートセンターにさっさと電話してリモートでアドバイスしてもらうのが女性。つまり、男性は自己完結型、女性は他者依存型といえます。

他者依存というと主体性がないようにも聞こえますが、そんなことはありません。女性の他者依存とは、上手に他者の力を借りながら、失敗しないように物事を進めていく女性特有のスキルともいえるのです。

最近でこそEコマースの「レビュー」が商品購入の判断材料となりましたが、女性は昔からクチコミに敏感でした。井戸端会議やテレビ、雑誌から集めた情報をもとに慎重に判断して購入する。家計を預かる女性にとって、買い物で失敗することは決して許されないという思いがそうさせてきたのだと思います。

1999年12月にサービスを開始したコスメ・美容の総合情報サイト@コスメ(アットコスメ)は、クチコミだけでなく、美容に関するブログなど、コスメ・美容に関するソーシャルサイトです。2020年4月現在のクチコミ数は何と1550万件。今や多くの女性が頼りにしている情報源といえます。何かを選ぶときは、多くの人の意見を参考にしながらベストな決定をしたい。そんな女性の他者依存志向をとらえて大成功したといえます。

またこのところ注目されているインフルエンサーやユーチューバーも、役立つ情報を得たいと考える女性の気持ちを上手くとらえて存在感を高めています。また、グルメサイトのユーザー評価やランキングなども、他者の意見を参考にして「失敗しないお店選び」をしたいと考える女性から大きな支持を得ています。「口コミで人気!」「予約のとれない〇〇」「ランキング1位」等は、女性の興味をひく定番コピーです。

主体的に他者の声を聞きながらよりより良い人生を築きたいと考える女性消費者。女性の助けにいつでも気軽に応じられる仕組みづくりが、女性との結びつきをより強固にします。


●女性消費者のこころをつかむポイント④ 男性はモノ志向、女性はコト志向
新しい冷蔵庫の容量が何リットルか気にかけるのは男性。冷凍のピザがちゃんと入るかを気にかけるのは女性。
同じ冷蔵庫を選ぶ際にも男性と女性の視点は異なります。同じように車を選ぶ際にも男性は排気量や最高出力
燃費といった性能を重視するのに対し、女性はボトルホルダーがあるか、雨の日でも子供を乗せやすいか、ベビーカーの積み下ろしはスムースにできるか、といった使い心地を重視して決めます。

つまり、男性はその商品が持つ機能的な価値を重視して選択するのに対し、女性はその商品が自分の生活にもたらしてくれる幸せなシーンをイメージして購入する傾向が強いといえます。女性消費者のこころをつかむポイントの4つ目は、男性はモノ志向、女性はコト志向です。

「ドリルを売るな、穴を売れ」というマーケティングの格言があります。これはモノを売るな、価値を売れという意味なのですが、別の見方をすると、男性が買っているものはドリルというモノであり、女性は「穴を開ける」コトを買っている、と解釈することができます。

例えばあなたがソファベッドを女性に勧めとします。その際重要なのは、ばねの数など技術的に優れていることではなく具体的な用途です。「このようなソファベッドがあれば、お宅の客室をもっと役に立つ場所、例えば仕事場やAVルームに変えることができますよ。そして来客のときは、テマをかけずに簡単にベッドに早変わりできるので、ホームパーティに招いた友達にも気軽に泊まっていただくこともできますよ」。ソファベッドがあることで生まれる、新しい幸せな生活を提案する。女性にはモノではなくコトに焦点を当てて訴求することがポイントです。

大阪梅田の阪急百貨店本店は、まさにコト志向の女性を取り込んでいつも大賑わいです。「モノを並べるだけの旧来の売り方では消費者の関心は呼べない。直接の収益は生まないが、「買いたい」という思いを抱かせるための仕掛け作りに知恵を絞る。」との考え方のもと、9階の催し会場「祝祭広場」では、「パンフェア」や「旅するSAKE」「バレンタインチョコレート博覧会」「ニューヨークフェア」など毎週ユニークなイベントを開催して買い物客を楽しませてくれています。また買い物の合間に息抜きできるカフェもいたるところにあって、おしゃべり好きな女性を喜ばせています。

モノ消費からコト消費の時代へ。これからは、商品を使うことで生まれる幸せな体験や時間を積極的に伝えていくことがおすすめです。売場やECサイトもお客様の想像力を掻き立てるものに設計しなおしていきましょう。

●女性消費者のこころをつかむポイント⑤ 男性は競争好き、女性は共感好き
男の子は他の子と遊べるくらいに成長すると勝ち負けのつく競争的なゲームをするようになります。こうしたゲームやスポーツを通して人生のルールを学び、グループ内で優位な地位を得ようと努力します。一方、女の子はおままごとが大好きです。お家ごっこやお店ごっこ、お医者さんごっこなど、それぞれの役割を演じることで相手に対する思いやりや共感が自ずと芽生えてきます。

女性消費者のこころをつかむポイントの最後は、男性は競争好き、女性は共感好きです。男性の競争好きも女性の共感好きも、やはり太古の昔に形成された男女の脳に起因するものといえます。

身近な例でみてみましょう。不要になったモノを売り買いできる代表的なインターネットサービスには、フリマアプリの「メルカリ」とオークションサイトの「Yahoo!オークション(ヤフオク)」があります。メルカリの利用者には女性が多く、ヤフオクの利用者には男性が多いのが特徴です。ヤフオクの醍醐味は競り合いです。なかなか手に入らないマニアックなお宝系のモノを制限時間ギリギリに高値をつけてライバルに勝つ。そんな快感が、競争好きな男性ファンを引き付けています。一方メルカリは、夜お風呂やベッドの上で何となく覗きに行って、これっていいなと共感した商品があると、出品者さんとやり取りしてポチっと購入のボタンを押す。そんなプロセスが忙しい女性のこころを癒しています。

このように、メルカリには競争心や「高く売りたい」気持ちよりも、「共感できる人に売りたい」「安心・納得して買いたい」という女性ユーザーが多く集まっています。対照的にヤフオクは、できるだけ高く売りたい側と、できるだけ安く買いたい側、どちらも競争心がポイントになっていることがわかります。

昨今の女性の共感は「いいね!」に表れます。いいね!と共感してもらうためには、あなたの会社にまつわるニュースや情報を伝えて、女性のお客様と親密な関係になっていくことがポイントです。例えば、チラシやホームページには店長やスタッフの顔写真を入れてメッセージを載せる。試食や試飲などの場を積極的に増やしてお客様の意見を聞く。ワークショップを開催して地元のコミュニティづくりを応援していく。スタッフブログやSNSを通して身近な情報をどんどん発信していくなどなど。大きなお金をかけて広告しなくても、今すぐできることがたくさんあります。要はリアルとネットの場で、お客様と対話を積み重ねていくことが大切です。女性はおしゃべりが大好き。あなたの会社に満足してくれたお客様は、知り合いに進んで広めてくれるでしょう。

さらに女性の「いいね!」を増やしていくためには、細部にこだわることが求められます。「あのシャンデリア、可愛いと思わない?」「あそこのディスプレイに使っている小物、売ってくれないかな?」「あの店員さんが着けているピアス、私も欲しいわ」。女性と買い物していると商品はもちろん、周辺情報に敏感に反応していることに気付きます。よきにつけ悪しきにつけ、女性は細かいことを認識する力に優れています。ディテールまで気をつかうことで共感創造力を高めていくことができます。

今、人や社会、地球環境、地域に配慮した「エシカル消費」に関心を寄せる女性が増えています。お客様はもちろん従業員や社会に対しても優しい企業が求められる時代になりました。これからは「愛」や「思いやり」が女性の共感を集めるキーワードです。

女性が経済を主導する時代、女性に幸せを提供できる企業だけが繁栄できます。そのためには女性の感情に訴えることがますます重要になっていくでしょう。

「明日、何着ていこう?」女性の永遠の悩みにこたえるファッションアプリ「XZ(クローゼット)」

みなさんこんにちは。女性マーケテイングラボの和田です。

女性には様々な悩みがありますが、働く女性にとって「明日、何着ていこう?」という悩みは普遍的で永遠の悩みといっても良いと思います。

「いつも同じ服を着ていると思われたくない」「洋服はたくさん持っているはずなのに、今日も着ていく服がない」「何を着ていけばいいか迷う・・・・」などなど、手持ち服をどう着回せばよいのか?は多くの女性特有の悩みです。

ある調査によると、「日本女性のクローゼットの70~80%が稼働していない」という結果もあります。本屋に行くと、コーディネイトの指南本ずらりと並んでいますが、それだけ需要があるということですね。

そんな日本女性の「着回し力」を応援するファッションアプリ「XZ(クローゼット)」が多くの女性から支持を集めています。開発したのは、2014年に創業したファッションテック企業、株式会社STANDING OVATION(スタンディングオベーション)です。

ユーザーが自分の持っている服や靴、バッグやアクセサリーなどの写真を「XZ」に登録すると自分の手持ちアイテムが組み合わされて、AIによってコーディネイト提案されるというもの。ユーザーの膨大な手持ち服=タンス在庫をデータ化することで、世界に類を見ないオンラインクローゼットを実現しました。

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現在の手持ち服の登録データは1700万点、アプリは110万ダウンロードを突破、着回しコーディネイト作成数は300万点と、タンス在庫の着回し提案サービスは多くの女性から支持を得ています。

AIによるシステムとしては、最新のファッションコーディネート画像(ショップ店員のスナップ画像)を取得し続け、画像解析でアイテムごとに画像を分解し、教師データとして登録。そのコーディネートデータを手持ち服データを組み合わせて、最新のコーディネート画像を提案するという仕組みです。

今後は、ユーザーの好みや体型などを加味した「パーソナライズ」提案の実現を目指していくほか、ECやリアル店舗とも連携したサービスを展開する計画です。

ファッションビジネスの本質は、「人の心やファッションへの感性をとらえ、個人のパーソナルなニーズを満たすこと」といえます。AIによって、人、特に個人としての顧客の動きをとらえることができれば、個人の好みやニーズをより精度高く把握することができます。

AI活用による新しいビジネス展開は、まだまだ始まったばかりですが、今後はAIという大きなチャンスをどう活用できるかが、企業の、ひいては日本のファッションビジネスの未来を決めるといっても過言ではないと思います。

アパレル大不況の中で9期連続増収総益。 「ワークマン」躍進の女性向けマーケティング戦略を徹底検証。

2020年2月7日に発表された株式会社ワークマンの2020年第3四半期のチェーン全体売上は前年同期比32.1%増の965億100万円、営業利益は同48.7%増の162億9000万円と、消費増税や暖冬の影響をもろともしない好調ぶりを示しました。また同日2020年3月期の通期予想を修正し、売上高を従来の1035億円から1200億円へ29%、また営業利益も150億円から189億円へ39.7%の上方修正を発表。このままいくと、9期連続の増収増益は間違いなさそうです。

米ファストファッションフォーエバー21の経営破綻、オンワード、三陽商会といった国内大手アパレルの業績不振、国内アパレル2位しまむらの減収減益など、今多くのアパレル企業が売上不振に直面しています。国内アパレルの市場規模はこの30年で約4割減少、一方で供給点数は2倍以上に増えているともいわれ、サスティナブルな観点からもビジネスモデルの転換が急がれています。

そんな中、独走を続ける「ワークマン」。2019年12月末の国内店舗数は858店となり、国内のユニクロ店舗数を上回る規模に拡大。2025年の1000店舗達成に向けて更なる成長が期待されています。今回は、アパレル各社が大不況に喘ぐ中、一人勝ちを続ける「ワークマン」のマーケティング戦略について徹底検証します。

●40年間で800店舗以上のネットワークを構築。
ワークマンは、1980年株式会社いせやの一部門として「職人の店 ワークマン」1号店を群馬県伊勢崎町にオープンしました。1982年には株式会社ワークマンを設立。建設現場の作業着など職人向け衣料を中心に売上を拡大してきました。同社は株式会社ベイシアや株式会社カインズなどで形成するベイシアグループに所属し中核企業の役割も担っています。2004年にはJASDAQ市場に上場。店舗数は順調に拡大し、2017年には800店を突破。現在は宮崎県を除く全都道府県に出店しています。そして2018年には、現在の大躍進のきっかけとなった新業態「WORKMAN Plus」をオープン。それまで売りにしてきたプロ職人向けの高機能・高パフォーマンス商品を一般に人にも買いやすいようにしたところ、今までワークマンを訪れたことのなかった若者や女性が来店するようになり一気に客層が拡大。大ヒット商品が次々に生まれるようになりました。

●ワークマン成長の根底にある経営理念「For the Customers」。
マーケティング戦略を策定・実行していくうえで最も重要になるのが、上位概念の経営理念やビジョンです。今や私たちの生活になくてはならない存在となったアマゾンのジェフ・べゾスは、「地球上で最もお客様を大切にする企業」をミッションに掲げ、豊富な品揃え、買いやすい価格、迅速な配送、プライム会員への様々なサービスの提供等で他の追随を許さない世界企業に躍り出ました。一方、ワークマンの経営理念は、「For the Customers(顧客のために)」。同社は、常に顧客の便利さを提供するために、過酷な使用環境に耐えるプロ品質と高機能な商品を、値札を見なくても買える低価格で、家の近くにある店で買えるようにすることに真摯に取り組んできました。アマゾンとワークマンに共通する顧客ファーストの考え方と実行力は、成熟時代に企業が成長していくための基本になる概念であり、それぞれの企業がいかに本気で取り組むかで成否が決まってくるといってもよいでしょう。

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同社ホームページより

●ワークマンが独自の価値を生み出す6つのこだわり。
ここでもう少し詳しくワークマンのビジネスモデルについて見ていきましょう。
① 商品力:ワークマンの最大の強みは商品力にあります。プロの職人が満足できる品質、機能、安全性、耐久性、耐熱性、通気などの性能を日々追求。しかも様々な現場で働く人に、その作業に最適な商品を提供する品揃え力は他社の追随を許しません。例えば手袋だけで何と250種類。10組178円の軍手は年間300万セットの販売を誇っています。


② 価格力:現場で働く人にとっての作業着や手袋は必需品であり消耗品です。だからこそ低価格であることは極めて重要。そして高品質で高機能な商品を低価格で提供することで顧客により喜んでもらうこと。同社にとって商品力と価格は、命のように大切なものなのです。特に値付けは同社のマーチャンダイザーが最もこだわる部分。商品は値付けで決まる、という考え方のもと、綿密な市場調査で事前に設定した売価を絶対条件とし、それを超える価格のものは作らないという徹底ぶりです。高品質で低価格を実現するために、原価率は65%前後と一般的なアパレル企業(20~30%)の倍以上で設定。粗利益率が低い分、セールや値引きは一切行わず、広告宣伝費なども必要最小限に。独自に開発した中国や東南アジアの海外工場とも直接取引を基本とし、毎回複数の工場から見積もりをとることで最安値でつくることに注力。また、店舗運営の標準化やデジタル化による店舗オペレーションの効率化、例えば自動発注システムの導入などにより欠品率を向上させるなど、あらゆる面で低価格で販売しても利益を出せる仕組み作りに挑戦しています。


③ フランチャイズシステム力:ワークマンは地域に最も根差した小売業態を実現するために、フランチャイズ方式による出店で店舗網を広げてきました。10年20年と地域社会に根をおろし、顧客との信頼関係を築き上げた店長が、地域の特性やニーズに合わせて商品を提供。昔からの個人商店のような密なコミュニケーションで常連客を増やし、また常連客が「この新人にいいの選んでやって」と現場に入ったばかりの新人を連れてきてくれます。顧客が顧客を増やしてくれる、そんな好循環が成長の源泉になっています。


④ フレンドリーサービス:地元に密着したフランチャイズだからこそ、顧客とのフレンドリーなつながりが気持ちよく買物していただく大切なポイントになります。元気で気持ちの良いあいさつ、清潔で整理整頓が行き届いた店内など、当たり前を徹底することで顧客が行きたくなる店、気軽に立ち寄りたくなる店を目指しています。2019年12月末時点のフランチャイズ比率は94.8%に上ります。


⑤ ネットワークの拡大:1980年に1号店を開設以来、日本中の働く人々に独自の商品やサービスを提供するために店舗網を拡大。人口10万人商圏に1店舗という方針のもと、2019年12月末には858店舗を出店。宮崎県を除く46都道府県に店舗ネットワークを広げています。これまでは建設や土木の現場で働く人たちが仕事の行き帰りに車で立ち寄ることを想定して幹線道路沿いに出店してきましたが、今後は一般顧客をターゲットにした「WORKMAN Plus」の出店を拡大。ショッピングモールや都心部にも店舗網を広げていく計画です。2025年には国内1000店舗を目指しています。


⑥ 社会貢献:アパレル業界における廃棄問題がクローズアップされる中、同社は優れた品質の商品を低価格で長期間販売することでサスティナブルなビジネスモデルを構築してきました。また災害時には、軍手、長靴、ブルーシートなど地域行政との綿密な連絡のもとに、必要な物資を提供。環境保護についても店内照明のLED化や環境配慮型車両への切替え、物流の合理化により配送便の削減に努めるなど全社を上げて取り組んでいます。さらに、公益財団法人ベイシア21世紀財団による学校のクラブ活動への助成事業等を通じて、未来を担う子どもたちの能力を育む機会を提供し、教育文化活動に貢献するなど、ESG経営にも積極的です。

●成長を牽引するPB商品開発
9期連続増収増益が目の前のワークマンも、決して順風満帆だったわけではありません。特に、リーマンショック後は客数と売り上げが大幅に減少。その後も団塊世代の大量引退や人手不足による現場労働力人口の減少、AIやロボットの発達など年々経営環境は厳しくなるばかりです。そこで2010年頃からプライベートブランド(PB)開発強化に取り組み、他社と差別化できる独自の商品開発体制の構築に着手しました。いわゆるSPA化の道に舵を切ったのです。すべて自前主義で構築することを目標に、商品企画から海外工場の開発、仕様書発注、検品、物流体制の構築まで手探りの中でノウハウを蓄積。その結果、他社が真似できない高機能・高品質で低価格な商品提供が可能になりました。しかしながら、現場労働力人口は縮小していくばかりです。そこで、対象顧客を広げ、他社にない商品開発も始めました。夫婦で来ても買うのは夫だけだったので、売れ筋の防水性や透湿性が高い軽量レインスーツで、赤など女性用を作り2900円で販売すると大ヒット。また雨天の屋外作業用のプロ仕様防水防寒ウエアがバイク用ウエアとして大絶賛されるなど、仕事用として開発した商品が口コミやSNSの拡散で一般客にも人気になるケースが増えていきました。

●2016年からは一般顧客向けPBブランドを展開
現在の高機能ウエア市場は、スポーツメーカーのブランド品が独占しているのが現状です。そこでワークマンはこれまで空白だった、高機能・低価格帯市場に参入することを決め、2016年一般顧客向けに3つのPBブランドを立ち上げました。ワーキングウエアで培った高品質・高機能をアウトドアビギナー向けに、ファッショナブルなデザインで提供する「Field Core」。しなやかな風合いとスポーティなデザインを併せ持つスポーツウエア「Find-Out」は、タウンでジョギング、公園をウォーキング、ジムでトレーニングに加え、プリントを入れてチームユニフォームとしても使えるブランド。さらに、「AEGIS(イージス)」は絶対的な防水性能を装備。バイクを愛するライダー、ウィンタースポーツ、釣りなどのマリンレジャーを愛するアウトドア派がターゲット。いずれのブランドも高機能アウトドアウエアの半分から3分の1の価格を設定。これまでの価格の常識を変えることで大きな反響を呼ぶ結果になりました。3ブランドの売上は順調に推移し、2017年3月期は30億、2018年は60億、2019年には115億円に拡大。それと共に一般顧客も年々増加しています。

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同社ホームページより

●ワークマン人気に拍車をかけたSNSでの口コミ
裏が凹凸になっていて滑りにくい厨房用のシューズは、妊婦や子育て中のママが「雨の日でも滑りにくい」という投稿から一気に大ブレイク。溶接工や塗装工が火花が散っても服が燃えないように着る「綿かぶりヤッケ」は一般の人が「冬のキャンプでダウンの上に着ると便利」とつぶやいたことがきっかけで空前の大ヒットに。アウトドアやスポーツの流行を取り入れ、安全性も考えて明るい色目にしたレインスーツは、バイクに乗る人が気に入り、動画で宣伝してくれてから指名買いが増加。このように顧客が新たな使用価値を見つけてくれることで、ワークマンの知名度は一気に広がりました。

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ららぽーと甲子園「WORKMAN Plus」にて撮影

●2018年9月新業態「WORKMAN Plus」1号店を出店
2018年9月、ワークマンは一般顧客向けの3つのPBブランドを主軸にした新業態店「WORKMAN Plus」の一号店をららぽーと立川立飛にオープン。、フランチャイズではなく販売は小売りのプロに委託。広告塔と位置付け、採算ラインの1億2000万円を初年度目標に設定したものの、女性客や若者が押し寄せ3億円に上方修正するほどの大成功を収めました。ワークマンが狙うのは、ナイキやアディダスといった有名ブランドのスポーツウエアなどを街着で着る「アスレジャー」というファッションスタイル。ここ数年のトレンドの波にも乗り、「WORKMAN Plus」は、2019年12月末には全国に154店舗を構えるまでになりました。

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ららぽーと甲子園の「WORKMAN Plus」店舗

●高機能・高品質・低価格アスレジャー市場の潜在パワー
同社は、高機能・高品質ウエアの低価格帯市場は約4000億円の潜在市場があると試算。今後は「WORKMAN Plus」に絞って出店を拡大する計画です。ところでこの分野で成功を収めているのがフランスの「デカトロン」です。1916年にフランスで設立したデカトロンは、世界51の国と地域に1500店舗を展開するスポーツ・アウトドアメーカーで年間1兆4000億円の売上を誇ります。強みは、ワークマン同様、SPA方式で機能性を重視したウエアを低価格を実現する商品開発力。例えば、10年保証がついたおしゃれなバックパックは驚きの390円。商品はすべてオリジナルで、店で実際に商品を試せることも魅力です。2019年3月には、西日本最大級のショッピングセンター「阪急西宮ガーデンズ」に、600坪の広大なスペースの日本第一号店をオープン。最後の黒船と言われており、今後は「WORKMAN Plus」との競合が予測されます。ただ、デカトロンの成功からみても、高機能・高品質・低価格アスレジャー市場は有望であるといえるでしょう。

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同社ホームページより

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デカトロン阪急西宮ガーデンズの店舗

 

●PB比率は50%超、アスレジャー商品が高い伸び
2020年3月期第3四半期のPB商品の売上は、前年同期比68.6%増の489億9500万円。チェーン全体のPB商品売上比率は50.9%になりました。中でもアスレジャー商品は、前年比138.0%の高い伸びを見せています。
「WORKMEN Plus」をオープンした2018年9月以降は、テレビの情報番組の中で紹介されることが多くなりました。ワークマンのうわさは宣伝広告費をかけることなく瞬く間に全国にひろがっていったといえます。

●ワークマンの今後の成長戦略

① 【商品】2020年春夏には「ワークマン女子」向け商品を大幅拡充
ワークマンの躍進を支えているのが、ワークマン女子といわれる女性顧客層の拡大です。ショッピングセンターを中心に出店を進める「WORKMAN Plus」の店舗増とテレビの情報番組による認知度の向上、SNSによる商品情報の拡散により女性客が半数を占めるまでになりました。2020年春夏商戦では、ハイストレッチワンピースやラップショーツ、ロングシルエットジャケットなどの女性専用商品を拡充。また、女性のSサイズを加えたユニセックス商品も大幅に増やしています。女性顧客の拡大が今後のワークマン成長の鍵を握ります。

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同社ニュースリリースより

② 【店舗】W’s Concept Storeの開設
2020年3月19日には、客層に合わせて看板と内装が「WORKMAN」から「WORKMAN Plus」に変身する W’s Concept Store『W’s Concept Store さいたま佐知川店』をオープンします。W’s Concept Store とは「ワークウェア」と「アウトドアウェア」のダブルの価値を持つワークマンを象徴する店舗。またW はワークマンのイニシャルでもあり、ワークマン独自のコンセプトである「機能と価格に新基準」を具現化する店であるという意味も込められています。製品は全く同じでも、看板と内装が変身すると異なる客層のための異なる店舗に見えるというパフォーマンスにより、「ワークマンプラス製品がワークマンでも100%買える」ことをアピール。一般客のワークマン既存店へ来店する効果を狙っています。具体的には、1.店舗正面のメイン看板が「WORKMAN」から「WORKMAN Plus」に変身。2.正面マネキンとウェアは変わらないが、高所作業からボルダリングに変身。3. 作業服パネルからアウトドア・スポーツパネルに変身。4.無機質な昼光色からスポットライトによるやさしい暖光色に変化。5.仕事用にやる気の出る爽やかな香りから、リラックスできる香りに変化。6.プロ客向けの音楽から、一般客向けに変化するというもの。今回の実験がうまくいけば、今後は既存店や新規店の標準仕様にしていく計画です。

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同社ニュースリリースより

③ 【EC】Click & Collect(クッリク&コレクト)戦略を強化
2020年3月16日には、店頭在庫による店頭受取を推奨する「Click & Collect(クリック&コレクト)型の新サイト」をオープン。店舗とネットをつなぐオムニチャネル型直販サイトでネット通販専業にも勝る体制を構築します。店頭受取は現状でも67%に達しており、今後は全国の店舗網の強みを活かして送料無料のメリットをアピールしていきます。顧客にとっては、送料がかからない他、人気商品はサイト上で先行予約できることや注文から最短3時間で受け取ることができ、その場で試着、サイズ交換ができる便利さがあります。一方、店舗側からすると、通販売上も店舗側の売上に加算されること、商品受け取りで来店した顧客が固定客につながること、ウエブ上で在庫を公開することで店舗への問い合わせが減少することがあります。ただ、顧客がメリットを享受するためには現状では店舗数が不足しており、今後は都心部のターミナル駅などへの出店増が課題といえます。クリック&コレクト型オムニチャネル政策は国土が狭く店舗数が多い英国で先行。ドラッグストアチェーンのBootsやPB商品を主体に販売する小売業Marks & Spencerは、店頭受取が7割以上といわれています。

④ 【プロモーション】アンバサダーマーケティングを本格化
プロ向け作業服の専門家はいても、キャンプや釣り、サイクリングや登山、ジョギングといったアウトドアスポーツの専門家は皆無だったワークマン。そこで、製品発表会にアウトドアスポーツに関する情報を発信しているブロガーらを招待、意見を聞いて翌年の製品モデルの開発に活かす取り組みをスタートしました。その結果、例えば、作業用レインスーツでは毎年バイク向けの機能をプラスすることで大ヒット。人気ブランド「AEGIS(イージス)」誕生の契機となりました。現在では、ワークマン製品を愛用してネットで自発的に発信しているブロガーやユーチューバー、インスタグラマーら20名を「ワークマン製品アンバサダー」に任命。アンバサダーとコラボした共創商品の開発に取り組むほか、2020年9月にはコラボ商品のファッションショーも企画。アンバサダーも舞台に登場する予定です。さらに2020年末までにはアンバサダーを50名に増員する計画です。また昨年10月25日にオープンした「WORKMAN Plusテラスモード松戸店」では、ネット評価を生かしたにプロモーションに取り組み始めています。店内の人気商品には、アンバサダーのサイトやSNSに飛べるQRコード付きPOPを設置。顧客はアンバサダーが発信する製品評価ページを見ることで、その商品の特長や使用方法を知ることができます。今後はネットで評判になった商品のQRコード付きPOP を3日で作成。全国の店舗で掲示できるよう進化させていく予定です。

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同社ニュースリリースより

以上、アパレル大不況の中で9期連続増収総益を記録する「ワークマン」躍進のマーケティング戦略を詳しく見てきました。私も実際に兵庫県のららぽーと甲子園にある「WORKMAN Plus」を訪れましたが、有名スポーツブランドやアウトドアブランドと比べてもそん色のない品質でありながら、その価格の安さには驚きました。
また店内の内装もおしゃれで、女性も気軽に入れる雰囲気を醸し出しています。

これまで未開拓だった市場への挑戦、高機能・高品質商品を原価率65%で提供する顧客志向のプライシング、徹底した合理化で利益を生み出すオペレーション、ファンを商品開発やプロモーションに呼び込むマーケティング手法など、ワークマンから学べる点は多くあります。同じような商品が巷にあふれる今、他社と差別化できる独自の商品を開発していくこだわりと執念こそ、ワークマンから学ぶべき最も重要なポイントではないでしょうか。