女性を笑顔にする、マーケティングのヒント。

今や消費の8割以上の決定権を握ると言われる「女性消費者」から選ばれ、愛され続けるためのマーケティングのヒントをお届けします。

中高年女性に人気の「カーブス」から学ぶ、女性マーケティングのヒント。

みなさんこんにちは。ライフスタイルマーケティングの和田康彦です。

 

スポーツ庁健康スポーツ課は、週一回以上スポーツする人の割合(スポーツ実施率)を65%にする数値目標を設定しました。この数値目標を達成するため、2017年度からは運動促進キャンペーンをスタート。スキマ時間を利用して手軽に運動に取り組む人の割合を増やしていく計画です。

 

現在20~40代のスポーツ実施率は3割強で、決して多いとは言えません。運動しない理由では「仕事や家事で忙しい」からが最も多く、多忙な現代人を象徴する結果となっています。スポーツ庁では、エレベーターを使わずに階段を利用する。一駅分を歩いて通勤するといった手軽にできる運動習慣を推奨。今後はクールビズのようなおしゃれなキャンペーンを実施していく予定です。

 

高齢化が急速な勢いで進行し、医療費が年々増大する中、主体的に健康管理ができる国民を増やしていく取り組みは、日本の赤字財政を解消する上でも、とても有意義なことだと思います。

 

ところでみなさんは、女性専用の体操教室「カーブス」をご存じでしょうか。ターゲットを50代以上の主婦に設定。1回30分のサーキットトレーニングを売りにしたビジネスモデルは、既存のフィットネスクラブとは一線を画しています。

 

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◆カーブスは全国に1791店舗、80万人の女性が利用。

運営するのは、株式会社コシダカホールディングス。総合余暇サービス提案企業を標榜し、カラオケ事業、カーブス事業、温浴事業の3事業を展開。「常識を超えていく」というビジネス戦略を掲げ、「既存事業新業態」の開発に取組むユニークな企業です。従来からある業種を対象に、常識にとらわれない発想でお客様視点で全く新しい市場を創造しており、「カーブス」もその一つといえます。

 

同社の2016年8月期の売上高は前期比15.6%増の511億7000万円、営業利益は同9.5%増の48億1000万円。9期連続増収増益の成長企業です。カーブス事業でみると、売上高は216億6700万円(前期比16.2%増)、セグメント利益42億3500万円(同9.8%増)と好調に推移していることがわかります。

 

「カーブス」は、米国で1992年に設立。その後世界各国に進出し現在80ヶ国で展開しています。創業者は実母を生活習慣病で亡くしたことをきっかけに予防の重要性に目覚め、運動する機会の少ない女性だけのカーブスを設立しました。コンセプトは「運動習慣を広め、豊かな人生と社会の問題を解決する」こと。国内では、2006年3月に北海道と埼玉県に1号店2号店をオープン。その後コシダカホールディングスがカーブスジャパンを子会社化して多店舗化を加速させます。その結果、2017年5月時点で店舗数は1791店、全国で80万人の女性が利用する体操教室に成長しています。

 

カーブスがターゲットにしているのは、これまで運動習慣のなかった50歳以上の主婦。言い換えると「運動の必要性は感じてはいるものの、これまで運動してこなかった」人です。過去5年間に他社のフィットネスクラブに在籍していた人は会員の5%以下という同社の調査結果から見てもこのことはわかります。つまり、「運動しなければいけないことは分かっているけれど、家事や子育てに忙しくてなかなかできなかった。でもこれから先のことを考えると何かしら運動をしなくてはいけない」と考えている女性の未充足ニーズを上手く取り込んだと言えます。

 

◆都合のいい時間に無理なく気軽に通える30分体操教室。

カーブスの特徴を見ていくと、①1回たったの30分の簡単エクササイズなので、すきま時間を利用してマイペースで気軽に利用できる。 ②予約やキャンセル不要でいつでも気が向いた時に気軽に通える。 ③家の近くにあるので、ふだん着のまま歩いて、或いは自転車で気軽に行ける。 ④女性専用なので化粧や体型など、男性の目を気にせずリラックスして気軽に運動できる。 ⑤会費も他社に比べると安いので、家計を預かる主婦でも気軽に続けられる。といった5つがあげられます。それぞれの特徴で共通するキーワードはズバリ「気軽さ」。この『気軽に通える』というコンセプトこそが、それまで敷居の高さで敬遠していたフィットネスクラブの潜在顧客を掘り起こしたと言えます。

 

◆会員とのつながりを大切にした、フレンドリーなコミュニケーション。

カーブスのもう一つの大きな特徴は、女性コーチが優しくフレンドリーな対応で、会員女性にアドバイスしたり励ましたりする独自のコミュニケーション方法です。カーブスのコーチは全員女性。それぞれのコーチは会員を苗字ではなく下の名前で呼んでいます。長年「のりこさん」とか「ゆみさん」と下の名前で呼ばれることのなかった中高年女性にすると、下の名前で呼んでくれるコーチに親しみを感じるとともに自分のことをとても大切にされているような気になります。運動中もコーチはひとりひとりの名前を呼びながらアドバイスや励ましの声をかけてくれるので楽しく気持ちよく運動できるわけです。しかも、1週間教室に行かないと8日目にはコーチから会員に対して「○○さん、どうしているの?元気にしているの?」といった内容の電話がかかってきます。ここでも会員女性は、自分のことを気にかけてくれていることを実感し、「また行こう!」というモチベーションを高めることになるのです。このような会員とのフレンドリーな関係性が口コミでも広がり新規顧客を増やすとともに、会員の継続率を高める上でも大きな効果を発揮しているのです。

 

◆ビジネスモデルから見たカーブスの強み。

カーブスの店舗がここまで全国に広がった背景には、比較的低コストで出店できるフランチャイズシステムの導入があります。標準的なカーブスのお店は約40坪。そこに12基のマシンを設置して運営すると、初期投資は約2000万円。ちょっと古いですが、カーブス本部が発表している資料によると、2010年の加盟店平均会員数は420人、純売上高251万円、営業利益率27.7%(損益分岐点売上高は約153万円)となっています。固定費が安く、損益分岐点が低いためフランチャイズへの加盟を希望する人が後を絶たず、現在は募集を取りやめているようです。

 

カーブスの営業時間は、平日は10時~19時(13時~14時は休憩、14時~15時はマシンメンテナンスやスタッフミーティング)、土曜日は10時~13時、日祝は休業、と完全に主婦に合わせた営業時間となっています。このためコーチになる女性は働きやすく、また毎日1時間のミーティングタイムをとっているためスタッフ間での会員情報の共有化が図られ、会員との親密な関係づくりにつながっています。

 

入会金は16200円(税込)、月会費は通常7236円(税込)、12ヶ月のお得コースは6156円(税込)と他のフィットネスクラブと比べると割安感があり、家計を預かる主婦でも入会しやすい料金体系になっています。また、健康状態の問診や体力測定、マシンプログラムを体験できる一日無料体験や入会金50%オフキャンペーンを通して新規会員の創造に力を入れています。

 

カーブスのトレーニングは①筋トレ ②有酸素運動 ③ストレッチの3本柱が特徴です。1人1人が自分のペースでトレーニングでき、順番にメニューをこなしていく仕組みなので、最大24名が同時にトレーニングできるというメリットもあります。このため会員はあまり待つこともなく、カーブス側は回転の良い運営が可能です。また月に1回は計測し、トレーニング効果を見える化しています。会員にとっては次のモチベーションにつながり継続を促す手段となっているのです。

 

ここまで女性専用30分体操教室「カーブス」がなぜ多くの中高年の女性に選ばれているのかを見てきました。顧客から見ると「気軽に利用できること」が最も大きな魅力となっています。またビジネスモデルから見ると、こちらも「比較的気軽に出店できる」というメリットが、全国出店を可能にし、誰もが利用しやすい立地に展開できています。一般的に女性は、複雑なことや難しいことを嫌う傾向があります。「簡単」「お手軽」「お気軽」「お気楽」といったキーワードは女性ゴコロを掴む基本的なキーワードであることを覚えておきましょう。

 

さて、カーブスが女性客から選ばれていることを証明しているのが、JCSI(日本版顧客満足度指標)の調査結果です。フィットネス部門で2016年度も1位となっており3年連続トップの座を保っています。決して付加価値の高いサービスや設備を提供していないにも関わらず高い顧客満足度を獲得できているのは、先ほども述べたように「簡単」「お手軽」「お気楽」「お手軽」に対するニーズが高い結果といえるでしょう。