女性を笑顔にする、マーケティングのヒント。

今や消費の8割以上の決定権を握ると言われる「女性消費者」から選ばれ、愛され続けるためのマーケティングのヒントをお届けします。

ジュエリー業界で業績好調な4℃から学ぶ、女性マーケティングのヒント。

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みなさんこんにちは。ライフスタイルマーケティングの和田康彦です。

 

宝飾品店「4℃」を展開するヨンドシーホールディングスの2017年2月期の売上高は 497 億 97 百万円(前期比 5.8%減)、営業利益は 65 億 29 百万円(前期比 6.8%増)、経常利益は 77 億 96 百万円(前期比 13.7%増)、当期純利益は 49 億 62 百万円(前期比 16.0%増)となり、営業利益、当期純利益は5期連続、経常利益は6期連続で過去最高を更新しました。売上高こそ傘下のアパレル子会社を譲渡した影響で目減りしたものの、低迷するジュエリー業界の中で独走を続けています。

 

◆国内ジュエリー市場はピーク時の3分の1に縮小

国内のジュエリー小売市場は、ピーク時の1991年に3兆円強に達したものの、長期低落傾向が続き、2016年度は前年比97.1%の9413億円と1兆円を割っています。2008年のリーマンショック後は、1万~2万円程度以下の低価格品しか売れなくなっていたのですが、2012年末頃からは、アベノミクスによる株価高騰を受け、富裕層向けに10万円以上の高価格品の需要が復活しました。ただ2016年は、インバウンド需要も沈静化、婚姻組数の減少によりブライダルジュエリーは縮小基調にあります。

 

◆源流はアパレル会社、いち早くジュエリーSPAを確立 

売上高の66.6%を占めるジュエリー事業の売り上げは前年比4.0%増の331億66百万円、営業利益は同2.6%増の59億80百万円。売上高に占める営業利益率は18%と高い水準です。また、アパレル事業の売上高は傘下の子会社を譲渡した影響から前年比20.8%減の166億30百万円、一方営業利益は前年比162.1%増の4億94百万円と大幅な増益になっています。

 

同社は1950年創業のアパレル会社が起源で、1972年にジュエリー事業に進出。当時から20代女性をターゲットにしたおしゃれなデザインは、多くの女性ファンの心を捉えてきました。また男性にとっても女性にプレゼントする際、4℃ならおしゃれで安心!というブランド神話が受け継がれており、デビューから45年たった今でもジュエリー業界をリードしています。同社の最大の強みは、企画・デザインから製造、販売までを一貫して行うSPA(製造小売業)業態をジュエリー業界でいち早く確立したことにあります。SPA業態は、従来からの「製造メーカー⇒卸売⇒小売⇒消費者」という流れではなく、自社でリスクを負って商品企画、生産から販売までを一貫して行うためリスクを伴います。しかし一方で、消費者の嗜好の移り変わりを迅速に製品に反映させ在庫のコントロールが行いやすいなどのメリットがあり、新たな市場の創造や強固な収益体質づくりに適したビジネスモデルといえます。

 

◆日本のジェリー業界の歴史

もともとジュエリー業界は貴金属業界とも言われるように、金やプラチナ、ダイヤモンドやルビー、サファイアといった希少な天然資源を身に着けることで、自己の存在価値をアピールしたり、資産形成ために購入されていました。いわゆる富裕層向けの業界だったわけです。その後、婚約指輪や結婚指輪が一般化する中、ブライダル向けジュエリーが市場を牽引していきます。日本での婚約指輪は1960年頃から結納品の一つとして贈られるようになりました。 婚約指輪を贈ることが一般化した背景には、1970年代頃にダイアモンドジュエリーを中心に展開している“デ・ビアス社”がキャンペーンで流したCMの影響があります。「お給料の3ヶ月分」というキャッチフレーズとともに、幸せそうなカップルが映し出されるCMは、とても新鮮で印象に残るCMだったため、婚約指輪にかける金額は給料の3ヶ月分が常識で、宝石にはダイヤモンドを使うという今の考え方が根付いていったのです。このCMがきっかけとなり、1970年当初は16%ほどしか贈られていなかったダイヤモンドの婚約指輪も、1980年代には70%以上の婚約指輪にダイヤモンドが使われるようになったと言われています。

 

そして1980年代に入ると好景気に支えられて、消費者の購買意欲はますます旺盛になっていきます。家電製品や自動車ななど、皆が同じものを持つようになると、次に日本人が求めたものは、「他とは違うもの」でした。ファッション業界においても、ライフスタイルや多様な価値観に合わせてモノを作ることが求められ、いわゆるDC(デザイナーズ&キャラクターズ)ブランドブームが巻き起こります。コムデギャルソンやヨウジヤマモト、フォークロア風のピンクハウスやヨーロピアンテイストのニコル、サブカルチャーの影響を強く受けたタケオキクチ、コムサ・デ・モードなど、個性を売りにしたファッションブランドが当時のおしゃれ好きの若者の心を虜にしていったのです。この流れは、バッグや靴、ジュエリーといった服飾雑貨業界にも波及し、人気ブランドのライセンス商品が次々に生まれました。ジュエリー業界でも、KENZOやミチコロンドン、クレージュといったブランドのライセンス商品が百貨店の1階売り場を席巻するようになります。ジュエリーも貴金属の時代からファッションジュエリーの時代へと大きく変化していったのです。

 

◆アパレル仕込みの鮮度管理と4℃らしい独自のデザインで女性の心を掴む

4℃といえば、「4℃しずく」「4℃ハート」「4℃ダブルループ」といった4℃らしい独自のデザインに特徴があります。どんな女性にも合うしなやかな曲線美は、好き嫌いが少なく、上品で都会的なセンスを感じます。ご存じない方には、日本版ティファニーと言うとわかりやすいかもしれません。また、元々アパレル会社が源流の4℃は、デザインの鮮度管理も徹底しています。店頭で売れない商品は早めに見切りをつけて新しい商品に作り替え、売れ行きの良い商品だけを店頭に並べるようにしているのです。ジュエリーもファッションの一部と考えると当然のように見えますが、元来古い体質のジュエリー業界では、デザインの鮮度にこだわる企業はそれほど多くはありません。

 

◆変色しにくいシルバーアクセサリーが大ヒット

2008年のリーマンショック以降は、1~2万円程度の低価格品しか売れなくなったジュエリー業界。その後アベノミクスの株価高を受けて2012年以降は10万円前後の高価格帯が復活し市場は2極化しています。4℃は、早くから市場の変化に対応し、10万円前後の高価格品と2万円程度以下の低価格品に注力した2極化対策に取りんできました。そんな中、2014年6月に本格投入した「エターナルシルバー」シリーズは、変色しにくいシルバーアクセサリーを謳って大ヒットしました。プラチナや金より割安感のあるシルバーは、遊び心のあるデザインを楽しみたい若者に人気がある一方で、空気に触れることで酸化し変色してしまうことから敬遠する女性も少なくありません。4℃オリジナル素材の「エターナルシルバー」シリーズは、「シルバーは好きだけれど、変色するのがイヤ」と思っていた女性の潜在ニーズを掴んで新しいシルバー市場を創造したと言えます。価格も1~2万円と買いやすいうえに、指輪やネックレス、ブレスレットなど幅広い品ぞろえでギフト商品としても人気を集めています。

 

◆お客様に寄り添う「コンサルティングセールス」

4℃が独走を続ける背景には、「ファッションアドバイザー」と呼ばれる販売員の存在があります。4℃では、「ジュエリーは自分へのご褒美から結婚という人生の節目までお客様の幸せに寄り添う商品」と位置づけ、お客様の想いに共感し、お客様に心から満足してもらうための「コンサルティングサービス」という独自の販売方法を取り入れています。コンサルティングセールスとは、お客様の話を丁寧に聞きながら潜在的な想いを引き出し、その想いに添ったジュエリーを一緒に選び、本当に満足してもらえるものを提案するという販売スタイルです。ファッションアドバイザー-は、単に商品を売るというよりも、お客様に寄り添いながら「心から喜んでいただく」ことを使命にしており、モノの満足はもちろん心の満足を提供していることが4℃の強みなのです。さらには、セール販売を行わないことで、顧客との信頼関係が構築できていることも強みの一つと言えます。

 

◆多彩な研修制度でキャリアアップをサポート

4℃には「F.D.Cフレンズカレッジ」という研修施設があり、年次に合わせて様々な研修制度で社員のキャリアアップをサポートするとともに、質の高いコンサルティングセールスを実現する仕組みを整えています。F.D.C フレンズカレッジには、ビジネスマナーからジュエリーの基礎知識などを学ぶ講義スペースのほか、模擬ショップが併設されており、接客技術を実践的に磨く場として活用。プロフェッショナル人財の育成にも力を注いでいます。

 

◆徹底した品質管理でお客様に最高品質を届ける

4℃では、お客様の安心・安全を担保し、ブランド価値を維持・向上させるための品質管理体制の強化にも力を注いでいます。神奈川県相模原市にある「4℃クオリティコントロールセンター」では、科学の目と細やかな人の目を融合した検品体制で最高品質を届ける仕組みを常に進化させています。貴金属の純度を科学的に分析する「X線検査機」やダイヤモンドの識別を行う「ダイヤモンドテスター」の導入による全数検品をはじめ、検品のプロ100人による厳しいチェック体制で不良品の撲滅に注力。業界では類を見ない高水準な品質管理体制が4℃の独走を支えています。

 

◆世代やチャネルに合わせた7つのブランド

4℃には、百貨店を中心に販売する中核ブランドの「4℃」の他にも6つのブランドがあります。「4℃BRIDAL」は、ゆとりあるスペースでホスピタリティ溢れる接客を行うブライダル専門店で主に路面店中心に展開。「EAUDOUCE 4℃」は品格と遊び心を兼ね備えたクラシカルテイストの百貨店ブランド。「Canal 4℃」は、駅ビルやファッションビルを中心に展開する普段使いできるカジュアルジュエリー。また、「MAISON JEWELL」は大切な人とつながる「絆ジュエリー」をコンセプトに郊外型SCで展開。「Luria4℃」は、ジュエルパース(バッグ・革小物)の専門ブランドで駅ビルやファッションビルに出店。他にも「4℃バッグ」があります。

 

ジュエリー売上の半分弱を占める主力の「4℃」は、百貨店業界の売上不振の影響もあり、2016年度は3.9%の減収。次いで売上の大きい「4℃BRIDAL」も、婚姻件数の減少を背景に5.2%のマイナスとなりました。一方で

「Canal 4℃」は、前年比14.8%増の約50億円と準主力ブランドの位置づけに成長しているほか、売上規模は小さいながらも、「MAISON JEWELL」や「EAUDOUCE 4℃」「Luria4℃」の3ブランドも前年に比べて大きく売り上げを伸ばしています。

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また、販売チャネル別でみると、路面店や百貨店売り上げが不振の一方で、ファッションビルや郊外型SCの売上は順調に伸ばしています。

 

◆ブランドポートフォリオ戦略で企業価値を最大化

4℃では、所有する7つのブランドを体系化し、それぞれのブランドの価値やブランドを所有する4℃ホールディングスの価値がより高まるよう、俯瞰的視点から計画的に各ブランドを管理していくブランドポートフォリオ戦略を推進しています。2016年度の取り組みを見ても、「Canal 4℃」は取扱アイテムを拡大することで既存店の伸びは継続し、出店や改装効果で売上・利益とも大きく成長。同様に、「MAISON JEWELL」や「Luria4℃」にも積極投資し、第2、第3の成長ブランドの育成に注力しています。百貨店が中心の主力ブランド「4℃」の成長は見込まれない中で、それを補う販売チャンネル開発やブランド育成にいち早く取り組んできたマーケティング力が、他社の追随を許さないベースになっています。

 

◆今後はEC、ギフトも強化

主力の「4℃」に代わる第2、第3の準主力ブランドが育ってきている一方で、2016年度のEC売上は前年比30.5%増の約15億円とこちらも拡大基調で業績を牽引しています。2016年8月には「4℃BRIDAL 公式オンラインショップ」がスタート。これまでの「JEWELRY BOUTIQUE」と合わせて、販売ゾーンやアイテムの拡充によって売上拡大を狙います。また、商品開発力と品揃え強化によるギフトニーズの対応力を強化する取り組みにも着手。「4℃BRIDAL」についてはブライダル専門店としての独自性を追求した商品展開と売場づくり、接客水準の向上に取り組むなど、2017年度もさらなる成長に向けたきめ細かい取り組みが実行されています。

 

 

◆「100年企業」「100年ブランド」を目指す4℃ホールディングス

4℃ホールディングスでは、全従業員を対象とした「まっとうな経営塾」(コーポレートユニバーシティ)を2015年11月に開校しています。同塾は永続できる企業として成長していくために、創業以来脈々と受け継がれてきた同社グループの経営哲学・魂を次世代に継承し、まっとうな経営を理解・実践できる人材を育成することを目的に設立されました。塾名は創業者をはじめ、歴代経営者が大切にしてきた考えである「まっとうな経営」という言葉が由来となっており、「価値観の伝承」研修では、同社の取締役が講師を務め、次世代リーダーの育成を行っています。

 

◆4℃の成長を支える「商品力」「販売メディア力」「オペレーション力」「フィロソフィー力」

ここまで、4℃ホールディングスが低迷するジュエリー業界で独走を続けている要因を見てきました。整理してみると①女性が好むデザイン開発力や徹底した鮮度管理、品質管理といった「商品力」②販売チャネルや顧客ニーズにきめ細かく対応した7ブランドの店舗開発、また店頭でのコンサルティングセールスといった「販売メディア力」③優秀な販売員を育成したり、万全の品質管理体制を構築する「オペレーション力」。そして、それらのベースになっている経営哲学を伝承・実践していく「フィロソフィー力」。当たり前といえば当たり前ですが、これらの商売の基本を徹底していることが経営の好循環を生み出していると言えるのではないでしょうか。