女性を笑顔にする、マーケティングのヒント。

今や消費の8割以上の決定権を握ると言われる「女性消費者」から選ばれ、愛され続けるためのマーケティングのヒントをお届けします。

銀座 蔦屋書店が目指すのは「アートの大衆化」

みなさんこんにちは。ライフスタイルマーケティングの和田康彦です。

 

先日の日曜日、4月20日にオープンした「GINZA SIX」を訪れました。開業から2ヶ月余りが経ったこともあるのか、日曜日の昼過ぎというのに、ラグジュアリーブランドを集積した売場は人影もまばら。賑わっていたのは、6階の蔦屋書店や銀座大食堂、3階のライフスタイルフロア、B2の フードフロアに限られていました。

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私のお目当ては、蔦屋書店です。今回GINZA SIXにオープンした蔦屋書店のテーマはずばり「アート」。売場には、日本的なアートや工芸にこだわった書籍や周辺グッズが充実していました。

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江戸時代の文化を伝える書籍のそばには、数十万円の万年筆や刀といった工芸品も販売しています。また併設するスターバックスコーヒーには、屏風やオブジェが飾られていて、まるで美術館のような演出。世界一アーティスティックなスタバでは、世代を超えた顧客がコーヒーを片手に思い思いの時間を楽しんでいました。

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蔦屋書店を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)株式会社の増田宗昭社長は、2017年5月28日付の日本経済新聞電子版で、「これからの世の中でいちばんインパクトのある分野はアート。アートを大衆化したい」と語っています。

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1983年に創業したCCCは、レンタルショップ業態のTSUTAYAの展開を通して映画や音楽を大衆化して、豊かなライフスタイルを日本に定着させてきた実績があります。そんな背景もあり、増田社長が語る「アートを大衆化したい」という言葉には自信すら感じます。

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増田社長は、アートを大衆化するという目的を達成するために、2015年には美術出版社を買収。「美術手帳」の編集者や彼らの人脈などアートをわかっている人のネットワーキング化に着手しています。その後、今年の3月には徳間書店を買収してコンテンツ分野を強化。また6月には、DPE大手のキタムラの筆頭株主になり、写真を使ったコンテンツ分野の可能性を探りだしています。増田社長の頭の中にはすでにアートをビジネス化する構想ができているのでしょう。

 

増田社長が創業以来一貫して追い求めてきたのは、「顧客をハッピーにすること。」モノがない時代は「モノ」を手に入れることで顧客はハッピーになり、高度成長時代には「おカネ」がハッピーの基準になりました。そして欲しいものが満たされ、世の中が成熟してくると「ライフスタイル」を充実させることがハッピー、という時代になっています。

 

例えば、衣生活がまだ貧しかった時代は、流行の「ファッション」に身を包むことでハッピーな気分を手に入れていました。ところが誰もがきれいになった今では、ファッションではもはや感動することはなくなり、結果として現在のファッション産業の不振につながっているのです。

 

人は、欲求が満たされてくると、ちょっとのことでは感動しなくなります。つまり欲求の高度化がどんどん進んでくるわけです。マズローの欲求5段階説でも、生理的欲求→安全欲求→社会的欲求→尊厳欲求→自己実現欲求へと欲求が高度化することは語られていますが、まさに現代は、消費によって欲求を満足させることは行きつくところまで行きつき、いまや消費することからはハッピーが見えなくなっているのです。

 

増田社長は、こんな時代だからこそ、「ムダ」と思われるアートが人のココロを動かすのだと言います。資本主義社会では、一部の富のある人だけが楽しんでいたアート。私たちの生活からかけ離れていたアートを大衆化したいという想いの背景には、これからの時代にはモノではなく「コンテンツ」こそが人を幸せにする鍵、という強い信念が隠れています。

 

そういえば、瀬戸内を始め全国各地で開かれているアートイベントや博物館や美術館には人が溢れています。アートに触れることによって心を癒したい、心を豊かにしたいと考える人が増えていることが背景にありそうです。つまり増田社長の狙い通り、アートを求める潜在ニーズは無限に広がっているといえます。

 

「アートが儲からないという意味が分からない。これからはアートしか儲からない」と断言する増田社長。「今後はクラウドファンディングを通じて、消費者とアーティストをつないでゆく」という次の展開も視野に入っています。成熟社会の中で新たな幸せ探しをしている消費者の心を動かすものは、確かにアートしかないのかもしれません。

 

「アート」ということばをもう少し拡大解釈してみると「美的センス」や「思い、主張」「カッコいい」「本質的」と置き換えることができます。つまり、ますます高度化する女性の欲求を満たすためには、作り手の思いや主張、フォトジェニックな美的センスやカッコよさ、本質的な機能やベネフィットが重要になってきているともいえるのです。