女性を笑顔にする、マーケティングのヒント。

今や消費の8割以上の決定権を握ると言われる「女性消費者」から選ばれ、愛され続けるためのマーケティングのヒントをお届けします。

ルミネはなぜ成長を続けられるのか? 後編

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みなさんこんにちは。ライフスタイルマーケティングの和田康彦です。 

ワールドやTSIといった大手アパレルの大量店舗閉鎖や不振ブランドの撤退、ユニクロの業績不振などファッション業界を取り巻く環境は厳しさを増しています。

そんな環境の中でも成長を続けているルミネは、20~30代の女性をコアターゲットに、大宮・北千住・池袋・有楽町・新宿・ルミネエスト・渋谷・立川・横浜・町田・大船・荻窪・川越・藤沢など、ターミナル駅 を中心として首都圏 15 店舗のショッピングセンター(3月開業の「ニュウマン」を除く)とネット通販 「i LUMINE(アイルミネ)」を運営しています。

全館売上高は、リーマンショックのあった 2009 年度を除き、1999 年度から 17 年連続で増収を続けており、2016年3月期の店舗売上高(ネット販売除く)は3255億400万円(前期比1.3%増)と過去最高を達成。また、ハウスカードであるルミネカードの会員数は約 120 万人(2015年9月現在)、20 ~30 代の女性利用率が約80%と若い女性に支持されているショッピングセンターです。

今回は、ルミネがなぜ若い女性客から選ばれているのか、ルミネならではの3つの提供価値に着目します。

①独創的でオリジナリティのある商品を提供する。
ルミネを率いる新井良亮 代表取締役社長は、Fashionsnap.com Insideのトップインタビュー(2015年12月28日)の中で、『今、どこもかしこも安売りで同質化しているのが気がかりです。商品の極論は「新しいか」もしくは「今までと違うものか」のどちらかですから。激しい競争に勝っていくには、今までのやり方と同じでいいはずがありません。』と既成概念を覆すことの重要性を語っています。

また『お客様の本当のニーズを捉えれば、とくに新しいデザインに対してものすごく感度が求められていることがわかります。それを提案できれば購買に結びついていくということ。「価値優先」の取り組みの成果は、売上としても出てきています』とオリジナリティこそが価値になることを力説。これらの発言からも、ルミネは「独創的でオリジナリティのある商品を提供」することで女性客から選ばれていることがわかります。

では、独創的でオリジナリティのある商品を提供するためにどんな取り組みや仕組みづくりをしているのでしょうか。ルミネならではの3つプロジェクトをご紹介します。

◆ルミネ ザ カルチェラ

次世代のファッションビジネスを担うブランドや若手デザイナーの発掘・育成を目的としたインキュベーション企画で2001年にスタート。ルミネにしかないオンリーショップや新進気鋭のクリエイターを紹介しています。2013年8月からはルミネ新宿 ルミネ2に常設店を設置し、毎月異なる複数のデザイナーに販売機会を提供。これまでに正式出店した店舗も10店以上あります。また2013年からは合同展示会、『LUMINE the QUARTIER-LA Exhibition & Market』を毎年1回開催。注目の国内デザイナーが集う新しいカタチの合同展示会として、バイヤー向け「エキシビション」と一般お客さま向け「マーケット」で構成。新進気鋭のブランドたちの世界観を発表する場として注目を集めています。

◆KOKO LUMINE

「産地支援」「地域共生」「復興支援」をテーマとした日本のモノづくりの大切さやその背景を伝え、発信することを目的とした、ルミネ全館共通の事業支援・文化発信プロジェクト。ルミネ全体の取組みとして、物販、食品催事、ワークショップ、イベント、展示等の開催により、日本のモノづくりの技術やクオリティを社会に広め、継承に努めています。

具体的には“日本のいいもの”の販売や、日本 のものづくりにちなんだワークショップを開催するキャンペーン『KOKO LUMINE WEEK』を 2015 年 8 月と 2015 年 12 月 26 日(土)~2016 年 1 月 5 日(火)の期間にルミネ計 12 館とルミネのネット通 販 iLUMINE にて開催したほか、JR 新宿駅直結の新商業施設 「NEWoMan」(ニュウマン)エキナカに、「ココルミネ」プロジェクトがプロデュースする初のフラッグシップ店舗、「ココルミネ ストア」を 2016 年 4 月 15 日(金)に開業。SHINJUKU が世界へつながる中心地のひとつとして、伝統工芸や日常使いできる日本のいいものや、ものづくりの背景と共に贈りたくなる大切な人へのギフトなど、日本の産地・地域の魅力と作り手の想いをつなぐ場として注目を集めています。

◆「LUMINE meets ART AWARD」

ルミネでは、館内に展示するアート作品を広く一般から公募し、若手アーティストの発掘と支援を目指すアートアワード「LUMINE meets ART AWARD」を開催。受賞作品は、ルミネ新宿のエレベーターやウィンドウ、新宿南口やルミネエスト新宿のデジタルサイネージなどルミネ館内に展示し、来店客にいつものルミネでちょっとした感動や非日常を感じてもらえるようなプラスαの価値を提供しています。

独創的でオリジナリティのある商品を提供するためには、独自の仕組み作りが重要です。上記のような長年積み重ねてきたルミネならではの取り組みがあってこそ、成長を持続できているのです。


②商品だけでなく質の高い店舗での買物体験を提供する。
新井社長は前述のインタビューの中で『売場が命なので“売場にはよく足を運ぶ”私たちには“明日来てもらえる”という保証はない』『経営陣は積極的にショップに出向くべきだ。劇的に変化するマーケットにショップが対応できずにいる状況を肌で感じ、早期に問題解決のために正しい方向に舵をきるべきだ』と、ショップへの強いこだわりを語っています。

また『そもそも、なぜ一生懸命作ったものをすぐ安値にして、それをお客さんに買って頂こうとするのでしょうか。妥当に売りましょうよ。特に夏のセールが、梅雨も明けていなくてボーナスも出ていない時期に終わってしまうのはいかがなものか。夏を楽しみに買い物に行く人のことを考えたら、セールは後になるのが適正です。真っ当に売らずして安売りという形で片付けるのは甘い、社会的な貢献ではないと、私は思います。ちゃんと作ったものなら、買っていただく努力をしましょうよ。知恵を働かせることはできるでしょう。』とセールに頼らない本質的な売り上げと利益の追求を目指しています。

では、質の高い店舗はどのように生まれているのでしょうか。
私が着目するのは、春と秋に実施している大掛かりな店舗リニューアルです。

昨年は、2月にルミネ全館にて 143 ショップが新規オープン。また8月には130のショップを新規オープンさせています。秋のリニューアルでは、ファッションとスポーツをミックスさせた全く新しいアクティブライフスタイルを提案するジ ュンと NIKE の新業態ショップ「NERGY」や、“ステキな朝を迎えるためのベッドルーム”がコンセプトの新業態ショップ「Priv. Spoons Club」などライフスタイル提案型の新業態ショップに加え、“BLACK コーヒーが似合う女性”をテーマに、DENIM スタイルをメインとしたカジュアルモードへ一新した「BLACK BY MOUSSY」、多くのセレブリティにも愛用されているアメリカのラグジュアリーブランド「MICHAEL KORS」など最新のブランドや新業態を積極的に導入、トレンドの情報発信を行うとともに、新しいもの・楽しいもの・魅力的なものに高感度な顧客のライフスタイルをリードする売場づくりに取組んでいます。

このような常に同質化から脱し尖った存在を目指す姿勢こそが質の高い売場を実現する原動力となっています。


③顧客満足ではなく顧客感動を提供する。
ルミネが若い女性客から選ばれている3つ目の理由も、新井社長のインタビューから見えてきます。『(店では)決めきれずに家に帰ってからECで買うこともあるでしょう。結局は、お客様がどこで時間を買うか。いずれにしても「顧客満足」のレベルではダメ。いかに「顧客感動」を与えられるかです。お客様が何を求めているのかは直接コミュニケーションをとらない限り得られませんから、やはり売り場がベースにはなります。あくまでもリアルを補填するのがEC事業という考えで、双方の良さを引き出すようにしています。』顧客満足ではダメ、いかに顧客感動を与えれれるか!この言葉の中にこそ、ルミネが女性客から愛される強さの秘密が隠されています。

では顧客感動を与えるためにどんな取り組みを行っているのでしょうか。
私が着目するのは、ショップスタッフのモチベーションを最大限に高める「ルミネスト」の取り組みと女性たちが働きやすい環境づくりを推進する「きらきらルミネ」プロジェクトです。

◆ルミネスト

ルミネでは毎年約3万3千人のショップスタッフの中から「おもてなしのスペシャリスト」を厳正な審査で選ぶ「ルミネスト」を選出。ルミネストに選ばれるためには、接客ロールプレイングの予選会、店大会、決勝大会の3つのステージを進んでいかなければなりません。その中で選ばれた優秀なスタッフだけが、ゴールド(80名)、シルバー(75名)、ブロンズ(300名)の「ルミネスト」の称号を獲得。ホームページ上で紹介されたり認定証が与えられたりと、ショップスタッフの育成やモチベーションアップに大きく結びついています。

新井社長も『まず私は、「販売員」という呼び方自体が違うのではないかと思いますね。お客様からのニーズからすれば、販売することよりも、むしろ接客の会話やコーディネート提案の方が多いはずですから。皆さんは大変な努力を積み重ねているし、その成果を正しい見方で真っ当な評価をするべき。その取り組みのひとつが「ルミネスト」で、人材確保と育成にも良い影響を与えています。』と語っており、ルミネストを中核にしたショップスタッフひとりひとりが顧客感動を生み出すエンジンになっているのです。

◆きらきらルミネ

ルミネの顧客は20~30代の女性が中心。社員も7割が女性でショップ店員もほとんどが女性です。女性社員がイキイキと働くことがショップ店員にも良い影響を及ぼし、売場の雰囲気も当然よくなります。その結果、来店した顧客も気持ちよく買物することができます。「きらきらルミネ」は、どうすれば女性社員がもっと働きやすくなるかを議論するために2013年に女性社員8人のプロジェクトチームとしてスタート。結婚、出産、育児といったライフイベントと仕事のバランスの取り方や多様な働き方を実現する職場環境づくりに率先して取り組みました。その結果、育児や介護、妊娠によって短時間勤務が選べる「選択勤務制度」、1時間単位で年次有給休暇が取得できる「時間単位取得制度」、育児、介護、病気の他妊娠や配偶者の転勤、自己啓発でも休職できる「休職制度」、会社を一旦退職した場合でも一定の要件を満たしていれば再雇用の対象となる「ジョブリターン制度」の4つの新制度が2014年からスタート。女性社員が働きやすい環境づくりをルミネという館が率先することで売場の優秀な人材が集まり、その結果ルミネ好きな若い女性客が集まってくるという好循環につながっているのです。

いかがでしたでしょうか。ルミネが女性客から選ばれて成長を続けている理由を3つの観点からレポートしてきました。どれもが地道な取組ですが長年やり続けている結果が今に結び付いているのだと思います。

「モノではなく価値や文化を売る発想の転換」「従来型の発想と手法からの脱却」「人材の育成こそが産業の発展につながる」など最近ではよく耳にする言葉ですが、要はこのような企業姿勢を顧客に伝えられるか!が最も重要です。これからの時代女性客に選ばれるためには、企業の「本気度」に共感してもらわなければいけません。