女性を笑顔にする、マーケティングのヒント。

今や消費の8割以上の決定権を握ると言われる「女性消費者」から選ばれ、愛され続けるためのマーケティングのヒントをお届けします。

「H&M」が目指すサスティナブルファッションとは。

みなさんこんにちは。ライフスタイルマーケティングの和田康彦です。
英BBCなどは、英バーバリーが年間約41億円分もの衣料品や化粧品などを廃棄していたことを7月に報道しました。その結果、環境保護団体などの批判を浴び、売れ残り商品の廃棄をやめ再利用や寄付に切り替える方針を表明。これまで、ブランド価値の低下を防ぐために焼却処分を続けてきましたが、市場からは環境負荷の抑制や社会的責任が求められており、放置すれば投資家や消費者の信頼を失いかねません。そんな中、アパレル業界では廃棄を前提としたモデルから抜け出す取り組みが動き出しています。

背景にあるのが需給のミスマッチです。経済産業省などの調査では、2016年の国内の衣料品の市場規模は約10兆円と1990年から3割縮小。一方、衣料品の供給量は年約40億点と同じ期間に約2倍に増えているのです。流行が細分化され、衣料品の単価が下がって商品寿命も短くなっているため、アパレル各社はアイテム数を増やして売り上げを確保しようとしてきました。しかし不良在庫が膨らみ、処分する商品が増えているのが現状です。

◆サステイナブルファッションを目指す「H&M」
そんな中、「サステナビリティ」に真剣に取り組むアパレル企業がスウェーデンにあります。日本でもおなじみのファストファッション「H&M(へネス&マウリッツ)」です。同社は、サステナビリティ(持続可能性)をビジネスの根幹に置き、2030年には100%サスティナブルな素材にする目標を打ち出すなど業界のリーディングカンパニーを目指しています。今回は、「H&M」が目指すサスティナブル企業としての具体的な取組についてみていきましょう。

スウェーデンが位置するスカンジナビアは、もともとクリーンエアやクリーンウォーター、リサイクルなどへの関心が高い地域です。また他の欧州諸国でも環境問題への意識が高く、特に最近では、サプライチェーンの働き方に焦点が当たっています。同社は、「正しいことを行うことで成長を遂げる」という価値観を持ったバリュー・ドリブン・カンパニーを目指し、すべてのビジネスや活動にサステナビリティを組み込んだ活動をしています。また、サステナビリティを推進するためには、人類や地球環境のために良いことと、企業の長期的な利益をもたらすことの両方をうまく融合させることが重要という考え方のもと、循環型の再生可能な方法でファッションの循環を目標に掲げています。

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◆2030年には100%サスティナブルな素材に。
「H&M」が考えるサスティナブルな素材とは、人びとの健康に配慮した素材であり、地球環境の負荷の少ない素材をいいます。例えば天然素材においても、テンセルやオーガニックコットン、オーガニックシルクなどのサスティナブルに調達された素材を使用することに舵を切っています。その結果、2016年には、コットンをサスティナブルにするための「ベター・コットン・イニシアティブ」に認証されたコットの世界最大ユーザーになっています。

一方再生資源の活用にも力を入れています。例えば「バイオニック」という素材は、海洋に投機されたプラスチックのリサイクルを原料とする再生ポリエステルで、同社のラグジュアリーなハイエンドコレクション「コンシャス・エクスクルーシブ」でも採用されています。また、H&Mの創業一族が運営する非営利団体は、外部の研究機関と連携して、廃棄物ゼロの「100%循環型リサイクル技術」の開発に取り組んでいます。例えば、熱処理によってコットンとポリエステルを分離できる技術を用いた大型機械の開発や、要らない服を持ち込むと熱処理のあと生地を粉砕して繊維にし、新たな生地を紡いで服にする小型コンテナの開発など、未来に向けた取り組みが始まっています。

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◆バリューチェーン全体で取り組むサステナビリティ
H&Mには世界に900のサプライヤーと1800の工場があります。同社のサスティナブル企業を目指す取り組みは、これらのバリューチェーン全体のミッションにもなっています。例えば、工場の労働環境基準の整備などのルール作り、エネルギー効率の向上、ソーラーパワーや風力発電など再生可能エネルギーへの転換、効率的な物流システムの構築、排出した地球温暖ガスと同等の樹木を植える取り組みなど、地球への負担をゼロにすることを目標にしています。

◆リペアサービスの開始やサスティナブルな子供服も発売
2018年6月にリニューアルオープンしたパリ・ラファイエット通りの基幹店では修理サービスをスタート、また刺繍やパッチワークなどカスタマイズサービスの提供も始めています。さらに古着を回収しクーポンと交換するリサイクルステーションを設置するなど、サスティナブルな店づくりにも取り組み始めました。さらに、9月27日には、世界自然保護基金(WWF)とコラボしたWWF×H&Mキッズコレクションを発売。アイテムの95%で持続可能な素材を使用。製造過程においてもCO2排出量や水質面で一定評価を保てる工場のみで縫製、売り上げの1割をWWFの環境保全活動に寄付するなどサスティナブルな取り組みを具現化しています。

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◆サスティナブルな取り組みは、これからの企業の生き残り条件
これまでにもお伝えしてきたように、国連のSDGsの推進等、世界ではサスティナブルな未来づくりの機運が高まっています。国内では、まだまだスタートラインについたばかりといえそうですが、これから先、消費の主役である女性が環境保全等の社会課題に目を向けていくことは間違いありません。今後は日本企業も、サスティナブルな経営を他人ごとではなく自分ごととして取り組むことが女性客から愛される条件になるでしょう。